瓶を割る方法
アンテ




カタカナの文字をでたらめに選んで
並べてみる
見たこともない言葉ができあがる
けれどたいていは
どこか遠い国の言葉を探せば
なにがしかの意味が見つかるだろうし
ネットで検索すれば
あんがい身近なものだったりする
どうしても意味が見あたらなかった言葉は
どれも
無国籍な人の名前のようで
声に出してみると
どこか懐かしい

意味ってなんだろう

濁音しか使わない世界があるとしたら
どんな気分だろうか
きっと
こことなにも変わらなくて
ただ
すこしだけ
街が騒がしいのだろう

瓶を割ってみましょう
先生はにっこりと微笑んで
みんなにひとつずつ瓶を配った
ぼくのはお酒の瓶で
ぷんとイヤな匂いがした
クラスメイトは好き勝手に
近くの子の頭に瓶を叩きつけたり
窓に瓶を投げつけたりした
いいですか
粉々に割るんですよ
ぴしゃっと先生が手を叩いた
水筒のお茶を入れると
瓶の後ろ側に不思議な模様の影ができた
みんな楽しそうだった
でも
粉々に割れた子はいなかった

扇風機に向かってしゃべると
声が分断される
紙のうえに言葉を並べると
勝手に意味を持って
一人歩きをはじめる
時には
別のだれかに作り替えられてしまう
大切な気持ち
を取っておくのは難しい
そう
たとえば瓶につめて
しっかりと蓋をしても
跡形もなく消えてなくなってしまう
瓶に穴があいていたのだろうか
水を詰めてみる
あああああ
扇風機に向かって声を出してみる
あああああ

形が違うから
区別できるのだと思っていた
たとえば人間と瓶
ヒロコちゃんとユミちゃん
言葉は
人から離れた瞬間にだれのものでもなくなるから
だから区別できない
あるいは言葉も
生まれたままのひと塊でいられるなら
区別できるかもしれない
ヒロコちゃんだって
腕や目や心臓をバラバラにして
別のだれかの物と入れ替わったら
瓶だって
粉々になって
溶かされて
また別の瓶に生まれかわったら

わたしは
いつ
今の形になったのだろう

瓶はとつぜん崩れだした
口が歪み
円筒が傾き
裂けて
中の水が机のうえに広がった
それはすでに瓶ですらなかった
とっても上手に割れたのね
先生が手を叩いて
クラスメイトのみんなを呼び集めた
みんなよく見ておきなさい
瓶を割るっていうのはこうやって
先生の口が歪んだ
先生の身体が傾いて
裂けて
血が
内蔵が

ビンヲワル
声に出してみる
きっと
どこか遠くの国には
そんな名前の女の子が暮らしているのだろう
コナゴナニワル
扇風機にむかってしゃべると
濁音しかない世界に来たみたいだ
なにかを言葉にすることに
意味などない
わたしに意味があったことなんて
一瞬たりともなかった
瓶を割る方法
はひとつしかない
それは

先生
それは










自由詩 瓶を割る方法 Copyright アンテ 2006-07-12 02:54:36
notebook Home 戻る  過去 未来