飛行機飛んで行く
ANN

ちっぽけな頭のどこかで
白黒の映像や写真の時代は
その時代全部が白黒なんだと思っていた

だから火蛍の墓を観た時に
少し違和感があった

笑い声
泣き声
みんな飛行機の音に消えた

耳を突く音に消えた

あのきのこ雲の下で
何があったのか
どんな音がしたのか
私には分からない
地獄のような、と言われたって
こんな頭だもの
すずめのように可愛い地獄しか
思い浮かべられないのだろう

ホラー映画で私たちが怖いのは
死体じゃない
ドロドロになっても行きようとする姿
そのどこかに
私たちはおぞましさを感じる
まるで復讐を恐れるように
あのドロドロに自分と同じような家族があり
好きなことがあり
希望があり
日課や癖があり
愛がある
それを知っているから
自分の中の愛を見るから
おぞましく感じるのかもしれない

飛行機は
人の心までは消せない

映写機は
人の心までは写せない

白黒の時代
何人死んだと数を数える
それ以上に何かを無くしていると
気づかぬまま

白黒の時代から
あっと言う間に飛び出して
この頭上まで
怖くない飛行機
飛んでゆく

あれはこのまま
どこに行っちゃうかな
ちっぽけなくせに
ちょっと怖いんだよ


自由詩 飛行機飛んで行く Copyright ANN 2006-07-08 22:28:20
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