デラウエア
藤原有絵
いつか鳥取砂丘で奪われた
気怠い熱が返ってくる感じ
デラウエアの雫が
中指からぽたりと落ちて
甘やかな記憶が
砂塵のように崩れていく
それは不思議な爽やかさで
一歩踏み出す事で
ぐんぐん体力が失われて
荒い息づかいで進んだ
靴の中が細かい砂で満たされて
諦めて両手で持ちながら
なお 進んだ
向こう側って本当にあるから
見れる限りは頑張ろうと思うんだ
左手でデラウエアをむしり取りながら
右手は記憶の残痕を探している
繋いでみても
あの抜けるような空は戻らなく
ゆるやかな余韻が
初夏の夜を満たしていく
あの正しい気怠さで
向こう側を見たいと思っている