かなしい人
日雇いくん◆hiyatQ6h0c

 かなしい人がいた。どうかなしいかもわからないくらいかなしい人がいた。かなしい人はかなしい町のかなしい団地のかなしい公園でかなしい顔をして泣いていた。かなしい町にくると誰も彼もわけもわからずかなしい気持ちになった。その中でもかなしい人は他の誰よりもかなしかった。人々はかなしい人を見るだけでいてもたってもいられずかなしくなっていった。やがて町の人々がかなしい人のそばに集まってきてひたすらかなしんだ。かなしいかなしいああかなしいどうしてこんなにかなしいんだろうかなしいかなしいああかなしい。そう言って人々はひたすらかなしんだ。そのうちいろんな人がどんどん人があつまってかなしい公園は人でいっぱいになりさらにかなしい公園になった。そしてさらにかなしい公園のまわりにまで集まってかなしくなった人がひしめいてさらにかなしい公園の近くの道は車も通れないほどになった。車も道がふさがっているので車も車の持ち主もすぐにかなしくなっていった。ふくれあがると言う言葉も追いつかないくらい集まってきた人々のかなしい気持ちはなかしくて大きな涙で出来たみずたまりとかなしくて大きな声のかたまりとなってやがてかなしい轟音へと変わっていった。かなしい轟音がとても大きくなったのでかなしくなった人々の地面が割れて裂け、かなしくなった人々は大きく裂けた口へとまっさかさまにおちていった。どんどんどんどんかなしくなった人たちが落ちていった。ついでにかなしくなった車もさらにかなしい公園のかなしい木々もかなしいブランコもかなしい砂場もかなしい砂場にいたかなしい三毛猫も何もかもすべてが落ちていった。しかしかなしい人だけがなぜか落ちずに残った。落ちた人たちの放つ轟音が地中から鳴り響くのを聞いてなぜ自分だけ落ちないんだろうと思いかなしい人はさらにすごくかなしくなった。かなしいひとはさらにすごくかなしい人になった。そしてまた人が集まってきた。


散文(批評随筆小説等) かなしい人 Copyright 日雇いくん◆hiyatQ6h0c 2006-05-04 06:36:22
notebook Home 戻る  過去 未来