歯を立てて、悲鳴を。
田島オスカー
噛み千切ってしまおうかしら。
痛いだろう、そんなことをしては。
そんな会話ばかりが
あたしを幸せにしていた
おまえの髪に指を通すと、人のぬくもりがあらわになるね。
冷たい指先があたしを
遊んでいた
いつもあたためるのはあたしで
そんな事実でさえも
あたしを幸せにしていた
おまえもおとなになってしまったね、かなしいよ。
あなたが言ったからあたしは
おもいきり時間を後悔しはじめて
でも冷えた指先への口づけを
何よりも好むあなたには
育ってしまって寄り添うしかなかった
おまえに噛み千切ってもらって、しんでしまえればよかったよ。
ふらふらと揺らぐ自我の奥に
あなたの指先が泳いでいて
何もこぼれないままにあたしは息を止めた
無酸素のままあなたのいない時間を数え始めて
苦しくなってしまって
やめた
あなたが他所の女の髪で
指先をあたためていなければそれでいい
唯一とはあたしには
そういうまぼろしの、
噛み千切ってしまおうかしら。
痛いだろう、そんなことをしては。