3月
日朗歩野

春とはいえまだ寒い。
夕方の風が僕の顔を険しくさせる。
クマを取り込みながら、ふとつぶやく。
「ん。彼女は質の良いクマを持ってるなあ・・・。僕のなんてネズミ男のようだ。」
彼女のクマは、薄い茶色で厚みがありほこほことした感じがした。
僕もこのクマを着たらどんなに質の良いクマになれるだろう・・・。
洗い立てのそのクマをもって、僕は身構えてみる。
やはりちょっと小さそうだ。
これでは、窮屈そうな変なクマになってしまう。

僕はサラリと諦め、床の上に取り込んだたくさんのクマを、一つ一つしまいはじめる。
良いクマでいるためには、こだわりすぎは良くないのだ。
そう、色んな感じのハチミツを味わうだけでいい。
一つ一つ手にとってたたんでみると、質が良いとは思わなかった僕のクマ、十分にあたたかそうだ。
あ。これなんて気に入ってるしなあ。
僕らしいってことでいるには、気に入っているというのはとても重要だ。
クマをキチンとたたみ終えて、すこしほっとする。

ガラスの外はすっかり暗くなった。
僕は、外に出る用事を思いつきませんようにと唱えながら、布団をアナグラノカタチに整え、甘いパンを手にもぐりこんだ。

早く夏が来て、川で遊べるといい。


散文(批評随筆小説等) 3月 Copyright 日朗歩野 2006-03-04 02:42:25
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