遂にここまで辿り着いた
ナイチンゲール

7年前、僕は同い年の少年に憧れていた。
彼は小説を書くのが趣味だった。
本屋に置いてあるような小説を自分の手で書いていた。
彼はクラスメイトとほとんど話さない浮いている存在だった。
でも、担任の先生がしきりに君の小説はすごいと褒めていた。
彼のする事為す事すべてが自分達より大人びて見えた。

6年前、僕は気違いと呼ばれた先生と出会った。
美術の授業なのに筆なんて握らせてもらえなかった。
彼は授業中ずっと自分の考えを僕らにぶちまけていた。
やっと絵が描けると思ったら、
自分の中に眠る三人の自分を描けと言われた。
僕は鏡に映った自分の顔を三回描いた。

同じ年、僕はクラスから孤立した。
誰が聞いても正しい事をみんなの前で堂々と主張した。
けれども、お前は生意気だと言われて
その日から仲間外れにされた。
僕は正しいはずの主張や抑え切れない悔しい気持ちを
ノートに書き殴るようになった。

5年前、僕は文芸部に入部した。
ノートに書きなぐったものが素晴らしい芸術作品に思えたから。
その年、僕の入部した文芸部は全国で一番になった。
部員のみんなは最低一つは何かの賞をとったのに
僕だけ入選さえもしなかった。

4年前、僕はみんなを見返そうとしていた。
けれどもその気持ちは地道な努力に結びつかなくて
自分で上げたハードルの高い志望校の入試に見事失敗した。

3年前、僕は勝利の幻影に酔い痴れていた。
大学受験のプロによる徹底指導の下、成績は鰻登り。
けれどもそれを陰で妬んだ人達に嫌がらせをされるようになった。
浪人生のための寮の中、
無茶な勉強と嫌がらせによって僕の精神はどんどん削られていき
ある日、限界が来た。

2年前、僕は毎日日記をつけていた。
引き篭もりになった僕がネットゲームで体験した素敵な世界。
そこで過ごす一日は本当に楽しくて、そして絵になった。
僕はどんなにあがいても過ぎていく時間に
少しでも逆らおうと一日一日を細かくノートに記録した。

1年前、授業で僕の書いたレポートがお手本にされた。
僕はそれが本当にうれしかった。自分は物を書いて
人から評価されることができるのかもしれないと思えた。
物書き倶楽部に入部して得意になって作品を書いた。
何人かは僕の作品をすごいと言って褒めてくれた。
それだけでは物足りなくなってきて、
僕は大学の先生達に書いた作品を見せて回った。
ほとんどの先生が素敵だと褒めてくれた。
僕はそれがうれしくて毎日たくさん作品を書いた。
日記をつけるのも忘れていなかった。

同じ年、僕はどこかに作品を投稿してみたいと思った。
自分の本当の実力を知りたいと思った。
みんなお世辞を言ったり、あるいは妬んだりして
自分の作品を純粋に一つの作品としては
評価してくれないと感じたから。
でも実際どこへ投稿したらいいのか分からなかった。

今年、僕は現代詩フォーラムに投稿していた。
勉強になる事は多かったが、なんとなく物足りない感じがしていた。
確かに以前よりずっとなりたいものに近づいた気はしたけれど、
ここを最終地点にするのはどこか間違っている気がしていた。

今日、僕はついに見つけた。
可愛い後輩がいいものあげますよと不敵に微笑んで
○○出版賞の募集要項を目の前に差し出した。
大賞、出版化+賞金100万円。
遂にここまで辿り着いた。その時思った。
遠回りばかりした長い道のりだった。
その気になればいつでも簡単にここには来れた。
でも僕は人一倍臆病だったから、
寄り道して逃げ道探して、ある時は背中を押されて
色んな人達と出会って、その中で支えられてここまで来た。
締め切りまであと一ヶ月もない。
今までで一番最高の小説を投稿しよう。
そう覚悟を決めた。





未詩・独白 遂にここまで辿り着いた Copyright ナイチンゲール 2006-02-10 23:01:10
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