メビウス・プリオンとクラインの壺焼き <承前>
クリ


亀吉スワディ・イワノヴィッチが世界を救ったことは
渋谷センター街でさえ知らない者はないほどだった
ある物質の組み合わせと形態と北枕システム
これを独自に創造したのが亀吉だった
その名も「メビウス・プリオンとクラインの壺焼き」
微妙なメカニズムであり、非常に、美味だった
世界の人口の5分の3は死に絶え
肉食雑食の多くの動物種は絶滅したものの
地球は亀吉に救われたのだ
しかし彼は英雄にも富豪にもなることはなかった
尊敬する者さえ数えるほどしかいなかった
何故なら…

国連と赤十字の使者がある日彼を訪れた
「亀吉さん、あの奇蹟の治療法について
世界はあなたに最大の敬意を表する準備があります」
彼は痰をからませながら怒鳴り散らした
あれは治療法ではなく「アート」である、と
世界は彼の作品の著作権を侵害している、と
それから亀吉ではなく、スワディと呼べ、と
彼は世界を憎悪した
「アートを理解する知識と語彙も備えぬ野蛮な輩よ」

しかし芸術が理解するものだとは誰も聞いていなかったし
何よりも「メビクラ」は旨かった
そして世界は亀吉の意図に反して救われた
彼は44歳で亡くなった

彼の墓に彫られた彼のすべて
「メビウス・プリオンとクラインの壺焼き」のレプリカ
石工の間違いでそれは逆さまに刻まれていたが
10年に一度ほど訪れる物好きの墓参者たちにとっては
花を差すのにちょうどよい、小さな窪みがあった

「承前」は嘘です。念のため

                          Kuri, Kipple : 2001.10.07


自由詩 メビウス・プリオンとクラインの壺焼き <承前> Copyright クリ 2004-01-29 00:47:22
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