あいうえお作文(上)
田中眞人


『あいうえお作文』

あノ行
 
 愛してると
 言ったのに
 嘘だ!、と
 ええ、嘘ですよと 真顔で言ったら
 おまえはどんな顔をするのだろうね?

    アイシテルなんてそうそう言えるもんじゃない、アホ

かノ行

 神様なんて居ないけれど
 キスをした後
 苦しい、なんて不貞腐れて言うから
 軽薄を言うわけではないが
 このまま時間が止まれば好いと願った

    神様なんて居ないけどね、そう言うとまた怒るのかしらん

さノ行

 さっきまであんなに楽しそうだったのに
 しくじった
 すっかりご機嫌を損ねてしまった
 背中を向けたまま 拗ねているのはもう止めて
 そういう意味で言ったんじゃ無いんだ、ごめん

    流石のおれでも、偶には折れるのだ、ということ

たノ行
 
 楽しい時間は
 ちょうど 瞬きをする位に 直ぐ過ぎてしまう
 詰まらない時間は
 てんで 遅く流れるのだ
 ところで おまえは今 何をしているの?

    ため息ばかりついても何も変わらない、とは、思う

なノ行
 
 何か不満が有るらしく 
 にべもなく言った、おれの傍に居ることは つまり
 微温湯みたいに 浸かっていると温かいが 出ると寒い らしい
 ね、上手いでしょ、と
 飲み込んだ感情を おれは どう表せば良いのか 判らなかった

    何がいけなかったのか、まだ気付いていなかったんだ、悲しいことに


自由詩 あいうえお作文(上) Copyright 田中眞人 2006-01-21 08:36:41
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