みどりのコートを着たコドモ
mina

 「月が明るい夜は
  外に出てはいけない
  みどりのコートを着たコドモが
  生まれる時間だから」

  そう聞かされていた


  街のはずれの丘は
  建設工事が中止になって
  土を掘り返したままになっている
  コンクリートの壁だけいちまい東側にどっしりと
  建ったまま
  日中でも陽があたらない

  ぼくは ひとりになろうと

  おかあさんも おとうさんも
  熱をだして
  布団の中でうんうんうなっているから

  ひとりになりたくて
  側にいたら邪魔だから
  ほんとうは
  めをつぶってると いつもはやさしい目尻の皺も
  四月の雨のように柔らかい髪も
  弱々しく
  遠くの深い知らない暗闇へと繋がっているようにみえて 恐くて

  夕ご飯も食べずに でかけてしまった


  点灯虫が壊れた自転車
  スニーカーの踵だけが月に照らされ光る

  あっくんの家をすぎ
  タコ滑り台がある公園をすぎ
  バケツに毛糸をたらして実験待ちの学校をとおりすぎ

  太陽に忘れられた場所に着いた


  天辺の壁の隅に飛び出してる鉄骨に
  ぶらさがるように
  月だけが かかっている

  踏み出す足もみえない
  夢のなかの道を歩いているみたいに
  あがった息も 他人の耳をとおしてバクバクと鳴り響いている

  なんにもない

  がっかり というより ほっとして
  おかあさんたちにいないことみつからないうちに帰ろう
  と もういちど月を見上げた

  鉄骨が幾本にも増え
  いつも遊ぶタコ滑り台みたいになっていた

  銀の魚がキラキラと滑り落ちてくる
  たくさん
  あとから あとから
  でこぼこの土に 入っていく

  暗闇に消える瞬間
  ぱちん
  跳ねるような音


  すると ぼくのてのひらから小さななにかがでている
  熱い 空気の層のまんなかに なにかある


  ぼくは そっと それを銀魚が消えた土の穴へと置いた
  きがつくと ぼくは みどりのコートを着て
  新しい命が芽吹き出す原っぱに立っていた
  
  


自由詩 みどりのコートを着たコドモ Copyright mina 2006-01-05 23:00:43
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