きんぎょ・かめ・うさぎ
こん

「きんぎょ」

かすかに覚えている
ものごころついたとき洪水があって
まだ泥だらけの 
でも復興しかけた町でいちがたって
母に手を引かれ買い出しに行った
長靴が泥でじゅぽじゅぽ 
ふと姉が排水溝に赤い金魚を見つけた
洪水で金魚屋から流れてきたらしい
「これ、飼うの」と姉が言い張り
我が家の初めてのペットになった
灰色の泥の中の赤い金魚
その後何匹も金魚を飼ったが
最後まで生きていたのはその金魚


8年生きたよ




「みどりがめ」

おまつりで買ってもらったミドリガメ
逃げ足が早くて
(カメは足が速い、と吃驚したものだ)
油断すると足踏みミシンの裏で寝ていた
たゆたゆ〜〜んと気持ちよさそうに寝ていた
近所に「かめのえさ」なんて売っていなかったから
姉とどぶへ糸みみずをとりにいった
ビニール袋と割り箸持って
小さなどぶをのぞき込む私たちを
通行人が不思議そうに見てゆく
「かめちゃんのえさだよねー」と
大きな声で話しながら糸みみずをとった
(やっぱり恥ずかしかったらしい)
母が「日光浴もさせなくちゃ」と
工場のトタン屋根に
カメ入り洗面器を置いていた
陽射しが強すぎて


死んじゃった





「うさぎ」

兵隊さんは可哀想だねー また寝て泣くのかねー

母がよく台所で口ずさんでいた うた
(起床ラッパの替え歌だそうだ)

小さいころ母はうさぎを飼っていたという
初めて自分が世話をした動物
いろんなことをあきらめていた母が
出会った暖かいふわふわのいきもの

(それがねえ、供出になってね)

うさぎは兵隊さんへのお肉とゲートルになった
そのゲートルを巻いた兵隊さんは
兵舎で泣いたのだろうか
戦場で生き延びたのだろうか


もう


遠い話








自由詩 きんぎょ・かめ・うさぎ Copyright こん 2004-01-22 11:02:46
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