フラグメンツ #91〜100
大覚アキラ

#91

 うそをつくリズムの軽やかさで
 ほんとうのことを
 片っ端からはぎとっていく
 次から次に鮮やかなスピードで
 まるで手品のように



#92

 頭蓋のドームの中に
 爆発する星たちが詰まっている
 閃光を放ちながら
 渦を巻く銀河

 喉笛
 鳴り響く
 星と星のあいだの
 エーテルで満たされた空間に
 
 掌の上の
 無限
 瞼の奥の
 刹那

 歌声
 歌声
 遠い
 歌声



#93

 おじいさんは山へチーマー狩りに
 おばあさんは川へ詮索に

 まあまあおじいさん
 今どきチーマーなんていませんよオホホホホ

 うるさいぞばあさんや
 ばあさんこそ詮索なんぞするもんじゃないぞ



#94

 坊や
 もう涙をお拭きなさい
 ほら耳を澄ましてごらん
 聴こえるでしょう
 バッファローが牽く橇に乗った
 サンタクロースが吹き鳴らす
 あの憂鬱な口笛が
 


#95

 宴会が終わったあとの焼肉屋のテーブルは
 まるで空襲のあとのようだった

 焼け焦げた肉片
 血の滲んだ皿
 油の浮いたコップの水
 折れた箸
 裏返った靴
 酔い潰れて倒れる者

 隣のテーブルではまだ空襲が続いている
 肉は炎に包まれている



#96

 どれだけいっぱい かしこいひとのかいた ごほんをよんで

 どれだけいっぱい おつむのなかに つめこんでみても

 けっきょく からだのなかは からっぽでしょ

 けっきょく こころのなかも がらんどうでしょ

 しゃべってる そのくちびるが さむいでしょ

 かきつづってる そのゆびさきが さびしいでしょ

 だからもう かんがえるのは やめてしまえばいいんだよ

 さむくって さびしいところから いますぐたびだって

 とりあえず きもちよくって あたたかいところへ

 そうやって やさしいことばで つづられたじゅもんは

 にんげんを どんどん だめにしてゆき

 にんげんは ことばのつかいかたを すっかりわすれてしまいました

 さむくって さびしいところで がんばっていたにんげんも

 さいごには こごえてほろびてしまい みんないなくなりました



#97

 たとえば
 すべてが幻だとして

 ふとしたきっかけで
 それに気付いてしまったとしても
 それならそれで
 別にかまわない

 ぼくは
 それまでと
 何一つ変わらない毎日を
 生きてみせよう

 毎朝
 決まった時間に起きて
 家族と一緒に朝食を食べるだろう
 地下鉄に乗って会社に行き
 たまには文句や愚痴をこぼしながら
 黙々と仕事をこなすだろう
 休日には
 犬の散歩にも行くだろう
 三日に一回ぐらいは
 つまらないことで妻とケンカして
 娘には
 毎晩寝る前に本を読んでやるだろう

 だから
 すべてが幻だとしても

 ぼくは
 何も怖くはない
 何一つ変わらない毎日を
 生きてみせるよ



#98

 やさしさと
 いとおしさのあいだの
 言葉にできない
 ふわりとした
 あの感じを
 一撃で貫通してみせてくれ

 昼下がりの公園で
 手をつなぐ恋人たちのあいだを
 音速でブチ抜くみたいに

 ソフトクリームが
 スローモーションで
 落ちてゆくよ
 ゆっくりとゆっくりと

 噴水は
 光り輝くシャンデリアになる

 おまえなら
 できるだろう



#99

 ぼくの生まれた町は
 日本海に面した小さな町で
 高度経済成長の頃は大きな化学工場があって
 街の男たちの大半がそこで働き
 映画館や商店は活気に溢れていた

 二十年以上前に工場が閉鎖されて
 町はあっという間に寂れてしまい
 今では当時の面影はまったくない
 商店はどこもシャッターを下ろしたままで
 映画館は廃墟と化し
 まるでゴーストタウンのようだ

 町外れには操車場があって
 夜中になるとコンテナを載せた車両が
 次から次にやってきて
 連結作業は夜通しおこなわれる

 寝静まった真っ暗な町に
 レールの上をゆっくりと滑る列車の音と
 車両どうしが連結する時の
 叩きつけるような金属音だけが
 延々鳴り響くのだ



#100

 終わりなんて
 どこにもない
 あるのは
 出口だけだ


自由詩 フラグメンツ #91〜100 Copyright 大覚アキラ 2005-12-15 18:53:31
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