『菱形テロル・ハレルヤ!』
川村 透

国境の兵士が前線の鉄条網の菱形をペニスでくぐり抜けようとした。


「敵兵」と、鉄条網ごしに、ひし、と抱擁、兵士の指に肩に顎に膝
頭にとげとげとげと血の赤色の苦痛を与えるそれぞれの針、針、指
の腹と腹で確かめ合う。唇と唇がふれあうたびに鍵裂きの傷また傷
を刻む蒼ざめた頬と頬、闇色の髪と髪は針どもにからめとられ胸と
胸、乳房を裸に引き剥くためにはゴルゴタの聖人のようにおごそか
にふるまわねばならぬ。
     股間は布地ごと菱形に国境線を越え、その報酬としてナ
イフのようようにふるえる指と指で、果実のように、あらわにして
もらえる。「敵兵」はやがて髪を網にからませたまま腰のあたりに
まで血濡れた唇を降ろし頬をふくらませて赤い尖った果実を口にす
る兵士は弓のように反り返り鉄条網は薄く弧を描き針どもはますま
す彼を赤く攻めさいなむ、おおお赤いテロル白いテロル砂のテロル
灰色の粉塵目蓋の裏、軍人どものウォー・クライ脳髄は蛍のように
かぼそい明りの中垂直にそびえ輝く矩形の歯磨きビル、ダイヤゴナ
ル・チューブ摩天楼に棲む番いのゴーレム手に手を取って盲目の双
子たち泥まみれの、$、$、DOLL喉まで詰め込まれアナルをF
IXする砂漠の砂、砂、砂、白銀のペニス翼広げ菱形に舞う天空の
コルク抜き心臓抜き赤い血糊は噴煙を七色にゆらめかせる、ぱらい
そ、さ、いくだ十字架になりそこねた墓標は砕かれて、い、い、い
んへるの。いい、いい、落ちるだ墜ちるだ堕ちるだ満ちるだ真昼だ
マヒ、るんだマチルダ祭だもうそこまでここまでキているミている
ハジけている目を覚ませサマセ、と、モーム、オーム、ミーム、ス
キーム、グローバリズム・ユニゾンのうた、サバクノハダレ?もう
もうとテロルの煙レアルの焦げる香すぐソコだじ、ごくの底だい、
ちじくだ友愛のユニセフ・フラッグ靴底の星条旗よ、ひし、と抱擁
性愛気をやれ永遠
なれ
     彼女は呪いの息を吹きかける老女のように目を閉じ眉を
しかめいちじくを噛む、ように侵入者を真摯に含み続けるかと思い
きや不意に後ろに飛びすさり黒豹のように男を一瞬見つめたかと思
うと銀の残像を残したまま自動小銃をタタ、と空めがけて打ち鳴ら
しザザ、と茂みに身を踊らせ闇に消失する
     彼女の、誰とでも寝るようなざっくりとした黒髪山猫の
瞳カーキ色の襟元あらわに、紺色に張りつめた胸のたわわが濡れほ
つれ野性のあどけなさが少女のように柑橘類を皮ごと噛みしめた時
の芳香が色濃くただようのだ、ああああ男は苦痛に体を海老のよう
にふるわせのたうちながら隣国の黒の空間に噛みちぎられた白い思
いをおびただしく放出し続けるのだ国境線を菱形にたわませたまま
遠くサイレンの音とともにぎらりとライトが男を捉え逡巡なく国境
の重機が吠えハレルヤ!着弾の祈りで兵士がはじけるマリオネット
ハレルヤ!菱、と、針と針に抱かれた兵士はハレルヤ!四肢の形の
十字架となって微笑むハレルヤ!山猫どもの棲む茂みにも存分に無
差別にハレルヤ!銃も笑えタタタタンタンタタタタン!


    『エリ、エリ、レマ、サバクタニ』
    (誰とでも寝るような、そんな神様が好きさ。)





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【Thanks to】

BGM 『Lefthanded Baby』--左ききのBaby-- BY Blanky Jet City
「妖怪ハンター」--生命の木-- 集英社 諸星大二郎

【Key Word】

Golgotha --ゴルゴタ--
    エルサレム近郊の丘、キリスト処刑の地
Whiteterror --白色テロル--
    白百合がフランス王権の象徴だったことから為政者が反政府
    運動、革命運動に対して下す激しい弾圧の事
『エリ、エリ、レマ、サバクタニ』
    の表記は、下記の資料中「マタイによる福音」による表記と
    した。
    「平明訳・新約聖書」角川文庫 ウィリアム・M・
    ギャレット=監修 松村あき子・飛田茂雄=訳
チューブ構造
    アメリカの超高層建築の限界をブレイク・スルーした構造形
    式。ビルを地上から突出したキャンティ・レバー(片持梁)
    とした時、外周を取り囲む列柱の形成するチューブ状の閉じ
    た矩形断面の形状=角パイプのようなフランジ+ウエブ効果
    によって水平力に抵抗する。建築家ミノル・ヤマザキと構造
    家スキリングによるニューヨークのワールド・トレード・セ
    ンターは、2m弱のピッチで密に配置された列柱によるフレ
    ーム・チューブ構造を採用する事によって実に110階建を
    実現していた。アーメン。
ダイヤゴナル・チューブ構造
    チューブ構造を100階建以上に適用するには、シャーラグ
    (Shear-lag) という問題があった。これはビルが高く壁面が
    長くなるに従って生じるチューブ効果の減少であり剛性低下
    である。ワールド・トレード・センターでは、振動を和らげ
    るため各階に多くのダンパーを取り付ける事を余儀なくされ
    た。ジョン・ハンコック・センターのプロジェクトにおいて
    このシャーラグを克服するために、SOMのファズラー・カ
    ーンは、外周に柱間隔を密に配置するフレーム・チューブを
    あきらめた。力学的に言えば外周フレームを密に菱形に組む
    ダイヤゴナル型が理想の形態だが、鉛直力の処理に難があり
    検討の結果カーンは、フレームとダイヤゴナルの利点のみを
    生かしたカラム・ダイヤゴナル・フレーム・チューブと呼ぶ
    大胆な構造フレームに到達した。
(参考資料:「現代世界の構造デザイナー アメリカ編」
望月重・石田邦生 共著 鹿島出版会)

(2001/10/15 ver 1.13)初出@nifty現代詩フォーラム
【付記】
■2004/09/11 飛びたまえ、深く。
【関連詩】
『Kiss-Piss ネットワーク』
http://po-m.com/forum/showdoc.php?did=541
『9月11日の線香花火』
http://po-m.com/forum/showdoc.php?did=542
『バグダッド・カフェラッテ』
http://po-m.com/forum/showdoc.php?did=17083


自由詩 『菱形テロル・ハレルヤ!』 Copyright 川村 透 2003-07-11 15:20:50
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