『バグダッド・カフェラッテ』
川村 透

おはよう、アベニュー、
NY city 9月11日

君と過ごしたバグダッド・カフェ まで
僕たちは雲の中を飛ぶように歩いてゆく
双子のビルが崩れ落ちる
もうもうたる砂嵐ふきすさぶ灰色の雪景色に包まれて

おはよう、アベニュー、
NY city 9月11日

母さん
母さんはあのビルの中に、いたんだね
僕は君と手を取り合いながら雲を踏み
白いつぶづぶでひたひたとつつみこまれ
咳き込みながら背中を丸めて歩いていた
TVの中を。

おはよう、アベニュー、
NY city 9月11日

母さん
母さんはミルク色の雲になって
僕たちの肩に、髪に降り積もり
抱きしめてくれて、いたんだろう?
TVの中の僕たちは知らなかったんだ

おはよう、アベニュー、
NY city 9月11日

キコエナイ。
うすずみのみずたまりへと僕たちが堕ちてゆくオト
すべての境界、面、が鏡になって
モノクロの、そこ、に魚がひそんでいる、気がする
白い、僕の筋肉は誰のためにある?
Holyをさがせ
Holy Bomb、いとしいひとの肉、のカケラ

ミルク色の霧を吸い込む
カフェラッテ、
バグダッド・カフェ
砂の雨

祈るように指で瓦礫を掘り起こす。
褐色の肌をした
美しい君の死体が眠っているんだ、僕たちは再会を果たした
甘く口を開けたまま、アバラとアバラでキスを交わせば
二人のアバラはアギトとなって互いの内臓をぶりぶりと喰らい始める。
僕たちは嗚咽する
すべての涙を吐気に変えてしゃくりあげる、そしてとうとう
泥まみれの心臓を喉から産み落としてしまった
力尽きた僕たちはミルクの香りのする土くれとなるだろう
びくびくと赤いつがいの心臓はいびつにゆがんだ金魚となって
君の黒い髪をそっと背びれで梳かしてくれた。
でも、もう行っていいよ
僕たちのそばになんて、いなくていいんだ。
離れて。僕たちから離れて。飛びたまえ深く

ミルク色の霧を吸い込む
カフェラッテ、
バグダッド・カフェ
砂の雨

もう夜が明ける。ここはNY?バグダッド?それともファルージャ?
うすく残り火暖かい煉瓦積みのかまどに首までもぐりこんでまどろむ
母が徘徊を始めるピンク色の朝日、
TVから砂アラシの声が聞こえる
聖なる爆弾どもがワルツを踊るオトがする
すすで汚れたほほを上気させながら
僕たちはただ甘えていたかっただけだ
白い母がミルク色のつめたい霧となって
君のしとねを抱きしめる、薄汚れた天使の翼、アラブの灰かぶり姫よ
せんそうは、ひなたの匂いがする僕たちは、洗濯、に
せいを出す主婦の仕草で君は
オーロラのように爆風を操ってみせるリリカル・テロリズム
Holyをさがせ、Holyをえらべ
Holy Bomb、いとしいひと

バグダッド・カフェラッテ
灰色のミルクにいとしいひとのカケラ浮かべて
のみほして、カフェラッテ、
バクダッド・カフェ
砂の雨

ミルク色の霧を吸い込む
カフェラッテ、
バグダッド・カフェ
砂の雨

僕たちも、もう土くれに還るから
バグダッド・カフェラッテ
灰色のミルクに粉みじんに溶けてびろうどの泡となるだけだ
ウツクシイ、アナタノカケラ
僕はこわくない、こわくないよ、母さん

おはよう、アベニュー、
NY city 9月11日

還ってきたんだ
再び路上で
僕たちは唄う
God Bless America!
再び路上で
ア・ラ・ブ I love you
再び路上で。

おはよう、アベニュー、
NY city 9月11日から
君と過ごしたバグダッド・カフェ まで
いとしい人のカケラ雨のように浴びつづける。

僕たちも、もう、土くれに還るから
離れて。僕たちから離れて。飛びたまえ深く

バグダッド・カフェラッテ。
離れて。


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【BGM】「ガソリンの揺れかた」BLANKEY JET CITY
【初出】メルマガ「さがな。」69号
2004/8/15 朗魔 にてリ―ディング


自由詩 『バグダッド・カフェラッテ』 Copyright 川村 透 2004-08-05 17:52:44
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