ネットワーク(リスト国際コンクール)
Terry

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 いよいよリスト国際コンクールが開催される。リストは音楽の技術を飛躍的に向上させた。世界の選び抜かれたピアニスト達がリストの魂を再現する。
 中でも一際才能を発揮した男がいた。通称ショパン?世。限りない音質、限りない情熱。彼の曲調に審査員は魅了された。
 リスト国際コンクールは 5 年に 1 度開催されるものである。5 年前は第 1 位が出なかった。審査員は、ショパン?世を高く評価し、見事名誉ある第 1 位に選んだ。
 表彰で彼はこう言った。
「私は音楽仲間に支えられてこのような賞をいただきました。そこでは私はハンドルネームとしてショパン?世と名乗っています。」
 審査員の 1 人は、なぜショパンを名乗るやつにリスト国際コンクールの高得点を与えたのかと後悔した。
 続けて彼はこう言った。
「ショパン?世を名乗るからには、リスト国際コンクール第 1 位として恥じないようにショパン国際コンクールに出場したいと思います。」
 会場から拍手喝采を浴びた。
 マスコミはショパン?世がリスト国際コンクールを制したと報じた。
 ショパン?世は日本のコンサートに招かれた。道中もファンの山に囲まれて大変な道のりだったが、クラシック音楽のファンだということでとてもうれしく、日本人初のリストコンクール第 1 位の輝きを誇りに感じた。
 到着すると蒼々たる面々のお迎えがきた。日本のお偉いさんたちが彼に握手を求めた。 コンサートが始まり、アナウンサーがマイクでショパン?世の名を聴衆に言うと、わっとざわめきが起こった。最前列の B-1 席を取った朱音。憧れのショパン?世がこんなにも近くにいる。胸をどきどきさせながら演奏を待ち構える。楽しみというものは始まる前がとてもおもしろい。彼が颯爽とピアノへと移動していく。リスト国際コンクールで第 1 位を飾ったショパン?世はソロで演奏をする。ピアノの鍵盤へ手を振りかざす瞬間まで、朱音はその瞬間まで、いや音を鳴らす瞬間まで網膜に写した。
 まずは、リスト作曲ラ・カンパネラ。そのリズム感にただならぬ衝撃を受けたのは朱音だけではない。プログラムに次の曲目が愛の夢と載っていた。
 まったりとする愛のメロディーが流れ、すでに聴衆は陶酔していた。朱音と通路を挟んで A-15 席に座る男が涙を流していた。そこまで感動するのだろうかと、朱音は不思議そうにその男に気づかれないように、その涙をはっきりと見た。
ともえ。」
その男が薄れた声でそう言い、朱音は耳で微少に聞き取った。しかし、朱音にはその男の悲しみを知る由もなかった。リストの旋律しらべが時を止めた。
 演奏を終えるとショパン?世は大絶賛を受け、アナウンサーから聴衆へアンコールを頼まれた。彼は十八番である英雄ポロネーズを演奏して、華麗なる演奏に人々は神の指を持つピアニストと後にそう呼んだ。
 ショパン?世はこの日の晩スケジュールが空いていて、真っ先に仲間とコミュニケーションをとった。

ショパン?世>
こんばんは
natsumi>
こんばんは
Harry>
おめでとうございます
ショパン?世>
やりました
miu>
きゃー超有名人とコンタクトがとれるなんて夢みたい
よしかつ>
オフ会を開きませんか?
yukinko>
いいわね
ショパン?世>
いい提案があるんだけど僕のミニコンサートに来ませんか?
Harry>
おおー
ショパン?世>
クリスマスは皆さん空いてますか?
よしかつ>
行きます
Harry>
俺も
natsumi>
私も
miu>
行くわ
yukinko>
その日は打ち合わせがあるの
Harry>
時間はとれるだろ?
yukinko>
うまく時間を組んでみるわ
ショパン?世>
Okay じゃあ今度会場を借りるよ

 音楽仲間達は、ショパン?世とチャットの別れを告げて方々に落ちていった。雪崩のように。
 朱音の十八番はリストのようで、話題になった愛の夢をクライアントから依頼されていた。


散文(批評随筆小説等) ネットワーク(リスト国際コンクール) Copyright Terry 2004-01-09 14:10:51
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