「月夜」
kay

-煙草の自販機-

ずいぶん
寂しくなりました
昔はね
夜中にぶらぶらと訪れる
思案顔の男性や
ほろ酔い加減の千鳥足のハイヒールの音をつれた
夜のお嬢さん方が
ああ!セブンスターはもう一つ右ですよ
そこはハイライトですよ!
まだ大丈夫、十円足りないから
ささ、十円入れてもう一度押してくださいな
ああ!もう、左押したらっ
あーあー、キャスター出ちゃいましたよ

ってな具合にね
朝までなんだかんだと忙しくてね
あの頃はちょっとは休ませてもらいたいもんだと思ってましたが
今じゃあね

寂しいんですよ
時間が来るとなーんにも
買えなくなっちゃうでしょ
だーれもこないでしょ
薄ぼんやりと赤いランプだけ並べて
突っ立ってるんですよ
ねぇ
昔はね
夜中でも煌々と白い明かりを灯して
暗い夜道にね
お月さんみたいにね

まぁ
あの頃は
自分の明かりでこんなお月さんには気がつきませんでした
まぁるいね
たなびく薄雲が
煙みたいですね
夜間飛行の電灯が
種火みたいで

寂しいんですよ
お月さん
もう一服どうですか?
もうしばらく

もうしばらく


自由詩 「月夜」 Copyright kay 2003-12-23 23:59:30
notebook Home 戻る