失恋

どうも、熱っぽい。


目覚めると、洗濯物の半乾きのような臭いがする、日曜日の午後3時
降り続く空まみれにならないようにと、室内には干しっぱなしのシャツと靴下
お気に入りの革靴は、もう5回も新聞紙を詰め直したのに、涙が止まらない
決して悲しそうではない、その涙は 欠伸を繰り返す、猫のそれに等しい

指先から、感じる冷気
体中に、感じる湿気
部屋中が、湿気を帯びている
首から上だけは、異様に熱を帯びている
空は、相変わらず落下し続けている自分に、何の違和感も持ち得てはいないらしい
部屋中が、同じ色をしていることに気付いた
おしっこ、




冷蔵庫を開けると、昨日の帰りにスーパームロイで買った、キウイが並んでいた
何かの本で、読んだ記憶がある
同じ柔らかさが、食べ頃
何処のことなのかを思い出す為に、体中のあちこちを触ってみる
股間の縮こまり具合に、現状の体調を実感させられる
思い出す
黄色いおしっこが、あまりにも頼り無い音で泡立っていたのを
そういえば、トイレから出たばかり
手なんて、洗う気もしない



枕元に転がっている、風邪薬の箱
覗き込んでみると、あと1回分しか残っていなかった
電気ポットから湯のみに御湯を注ぐと、昨日使った紅茶のティーパックを再利用
出がらしが、じんわりと融けて行くのを見つめながら
奥歯の裏側の、根っこの辺りを舌先でなぞって
(ああ、歯磨きしなきゃ、)
半開きの眼で2色のカプセルを摘み上げると、恐る恐る紅茶を啜る。
薄いなぁ、
(食後に飲むようにと書かれているのに、そんな、食欲なんて)
1個ずつ、飲み込んだら、みの虫になって

耳たぶの先っぽまで、じんわりと
湿気が熱を帯びている
包まれている、気だるい感触
半乾きの洗濯物のような、臭いがする。




ほんの数十秒、急に酸味が欲しくなって もう一度、冷蔵庫の前にしゃがみ込む
うんこ座りで中を眺めている、茶色くて丸い、毛の生えた果実
まな板を寝かせると、半分に切って
おぼつかない指先でスプーンを握ると、掬い取って、口に含んだ

何処かで噛んだことのある、感触
閉めた冷蔵庫に、背中から寄り掛かって


舌先で、ころころと
飴のように弄ぶ
僕の視線も、ころころと揺さぶられているんだろうか、
少し、含み笑いを零しながら、



座り込んだフローリングが、お尻から容赦なく熱を奪い去る
いつまでも噛み潰されないキウイのかけらが、じんわりと唾に包まれてゆく
昨夜を境に呼吸を止めた着信音
外からは相変わらず、空は、それを止める素振りすら見せない

音が、臭いに
静けさに、染みていて。







薄ら半開きの口元から、今にも零れ落ちそうな、緑のかけらが濡れている。







君を、想う。









涎を啜り上げると、ドロドロのかけらを噛み潰した
喉の奥へと滑り降りて行く、かけら
食べ残しのキウイをゴミ箱に落としたら
ぬけ殻の、かまくらを崩して もう一度、みの虫になる

今年の風邪も、きっと長引く。
さっき捨てたキウイの柔らかさで、泣いてみるのも一興かもしれない


自由詩 失恋 Copyright  2003-12-21 07:55:56
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