小塚原道行
佐々宝砂

髪の乱れを気になさるな。
血濡れた衣も気になさるな。
そなたは美しゅうござります。

この身はすでに腐り果て
ところどころに穴ひらき
覗く腐肉に蛆が這い。
しかあれど
まなこはかっと見開いて。

そなたの乳房も。はや崩れ。
おとがい歪み唇黒く
真珠の肌も柿渋色に
変わり果てておりましょう。
されどそなたは。
綺羅はなくとも。紅ささずとも。
いつまでも美しゅうござります。

手に手をとってのみちゆきも
旅の仮寝の濡れ事も
朝顔の露と儚く立ち消え。

一升五合の血を地に吸わせ
おのれの首をおのれの腕にかいいだき
離ればなれに晒されて。


されどわれらがみちゆきは
小塚ッ原に果てるでなし。
われらの逝くは同じ穢土。

死の六道に
われらを誘う魑魅魍魎。
それさえ今は慕わしく。

ご覧なされ。

ぽう。と。
蒼白う燐が光りまする。

かねの色した蝿どもが
きらりきらりと舞いまする。






自由詩 小塚原道行 Copyright 佐々宝砂 2005-07-28 11:57:40
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