背泳ぎにて見上げる
黒田康之

静かすぎるよって
背泳ぎをしながら呟いてみると
空には立派な
夏らしい雲
陽に焼けた
男と女の睦み合う
そのすぐ横を泳ぎ去るとき
波立つ水から
微かではあるが
女の性愛の匂いがして
どこにでもある
青に染まった上空は
ぼくの鼓動のままに揺れだす
陽に焼けかけたぼくの鼻に
女の肌が匂うように映るとき
緩やかな暴力のように
ぼくはどうしようもなくその女を抱きたくなって
現実にその女を抱いた気がした
現実に違う女を奪い去り
ぼくはプールを後にした
夏には夏の
女の匂いが満ちていて
空行く雲はあんなにでかい


自由詩 背泳ぎにて見上げる Copyright 黒田康之 2005-07-16 18:39:28
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