犬だった頃

昔、犬だった頃のことを思い出したのです。
飼い主は優しくて私のことを可愛がってくれました。けれどいつもどこか淋しいのです。こんなにも愛されているのに、いつもどこか寂しい気持ちを抱えていました。いつのまにか吠えることを忘れ、下を向いてあるくようになりました。自分の小さな肉きゅうをみながら、「私は寂しいの?」と自分に問いかけてみました。犬だったとき、寂しかったのは、飼い主があの人だったからで、違っていたなら、犬は死んでしまうことなんてなかったのに。犬だったとき、そう思って私は死にました。でも、あの人が私をなでてくれたときの温かな手や、やさしいまなざしをどうしても忘れることことは出来ないのです。犬だった私はきっと幸せだったんだんだとおもいました。今は人間になったけれど、きっとあの時の幸せは忘れないとおもいます。生き物はは幸せになりすぎると寂しくて死んでしまうことが時々あるのだといいます。






散文(批評随筆小説等) 犬だった頃 Copyright  2005-07-08 02:19:46
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