たとえ明日は 裏切ろうとも  マリアンヌ・コーン
砂木



    たとえ明日は裏切ろうとも

たとえ明日は 裏切ろうとも
きょうは 裏切りはしない
さあ わたしの生ま爪を剥ぎとるがいい
だが きょうは 裏切りはしない

わたしの勇気のほどは
おまえらには わかるまいが
わたしには よくわかっている
おまえらは 五人で
指輪をはめた ごっつい手をして
足には 鋲のついた靴をはいている

たとえ明日は 裏切ろうとも
きょうは 裏切りはしない
決意をかためるには 夜が必要だ
だが 愛するものを投げ捨て 売りわたして
裏切るためには 一夜も要らぬ

友を売りわたし
パンやぶどう酒を投げ捨て
人生をうらぎって
死ぬためには

たとえ明日は 裏切ろうとも
きょうは 裏切りはしない
やすりは床の下にある
やすりは 鉄格子をすり切るためにあるのではない
やすりは 死刑執行人のためにあるのでもない
やすりは わたしの手首のためにある

きょう わたしは何ひとつ吐きはしない
たとえ明日は 裏切ろうとも
              1943年 9月

スイスに護送される途中 ドイツ軍に逮捕された 子供達の教師。
アヌマスで投獄 子供の世話 開放後死体発見 1944年7月8日 23歳で銃殺

          レジスタンスと詩人たち 大島博光様 著 より(白石書店)

二十三歳の頃 汽車に乗っていった図書館で 偶然手にとった本。
マリアンヌが いた。
第二次世界大戦中 投獄された牢屋からみつかったと あったと思う。
血で 見つからぬように壁に書かれた詩。
子供の頃から 好きで書いてる詩ではあったが この詩は 違う。
同じ二十三歳くらいで なんということだろうと思った。
汽車の時間もせまり この詩と もう一作 ノートに写し 実は本の名前は
写さないでしまった。
ネットに簡単ながらHPをもち この詩をだしていた所 大島さんの身内の方が
この本の存在を教えて下さった。こんなことってあるのだろうか。
十六年も前に 写し取ってきた本の著者が わかったのである。
マリアンヌ・コーンで検索した所 私の所にきたらしい。
偶然という奇跡。マリアンヌの写真まで みせていただいた。
ネットでこの詩を伝えている事を 大島さんも喜んでくださったらしい。
この詩は ひとりひとり 手渡しして 伝えようと思っていたが気が変わった。
マリアンヌ あなたの詩をこの場に解放し まじめに受け取ってくれる人に
届けようと思う。
見守ってください。
                   2005 6 27 砂木由宇子より








散文(批評随筆小説等) たとえ明日は 裏切ろうとも  マリアンヌ・コーン Copyright 砂木 2005-06-28 23:47:31
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