ただいま
ベンジャミン

あの日
僕はふらっと出かけたそうだ

何処にも行けない身体で
何処に行けるはずもないのに
何処かへ出かけてしまったそうだ

(言葉を忘れるということは
 そんな遠い旅に出ることに似ている)

いくら呼びかけても
ああ うう としか言わない
僕を探すことは難しかったろう
突然ふらりと立ち上がり
そばにあるものにぶつかってしまっても
それを動かしたのは僕ではないのだから

だって

僕はそこにずっと居て
僕はそこにずっと居るだけだったのだから





ある夜
僕はきゅうに笑い出したそうだ

そのことは何となく覚えていて
そのことは忘れないと思う
そのことは忘れちゃいけないとも思う

だって

僕はそこにずっと居たと
僕はそこにずっと居たとわかったのだから





それから
僕はたくさんの詩を書いたのだけど
まだ書いていない言葉がある

たった四文字の言葉だ

たった四文字の言葉を
思い出すのにどれだけかかったろう




ただいま




今日も病院へ行こうと思う
ちゃんと

ちゃんと病院へ行くことは正しい
それよりも

それよりもちゃんと言えることの方が
もっと正しい

ただいまと
正しく言えることが

今は嬉しい

    


自由詩 ただいま Copyright ベンジャミン 2005-06-13 06:54:47
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