やどかり不動産
あおば



我が町の
奇商組合員の中には
やどかり不動産もいて
地見屋のように日がな一日
干潟を歩く
歩くついでにゴカイでも掘ればよいのに
目を皿のようにして
宿のないヤドカリを探す
着物をはぎ取られたネズミ男のような
宿無しのヤドカリは
滅多に見つけられるものではない
形の良いかしぱんでも拾って
お土産屋に卸せばよいのにと思うのだが
先祖代々の稼業は神聖のようで
わき目もふらない
運良く
宿無しヤドカリを探し当てたときは
脱兎の如く駆け戻り
ご丁重に
お客様をご案内してと
一言告げてあとは知らん顔
難しい顔をして
契約書の用意をするのを怠らない
どう考えても
ヤドカリはお金を持たないから
店に来ることはないのだが
誰も来ないと
その日は
いつまでも店を閉められないので
そういうときは
東京の懇意な不動屋さんにこっそりとケータイして
一ヶ月ほど
鄙びた漁師町でのんびり過ごして
英気を養いたいという
結婚生活に疲れた30男を捜してもらう





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タイトルは、「奇天烈デモクラシー」、より


自由詩 やどかり不動産 Copyright あおば 2005-06-07 00:16:01
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