咳払い
たもつ
アイロンをかけているうちに
随分と沖の方まで流されてしまった
振り返ると街の明かりが遥か遠くに見える
自分の家は海沿いにないから
さらにあの遥か向こうだ
すぐ脇には洗濯物が山積みされていて
いつ誰が洗濯したのかも思い出せない
こうして一生アイロンをかけたまま
流され続けるのかもしれない、と思うと
値上げされた電気料金のことが心配になる
聞き慣れた咳払いが聞こえる
それが家の者の癖なのだと初めて気づく
いずれすべてが懐かしくなって
すべてを忘れていく
アイロンと台以外は
言葉しか持ってこなかった
何か呟こうとするけれど
もう息継ぎをするので精一杯だった