吠えるよりも先に噛みつく場所を決めておけ
ホロウ・シカエルボク


狼たちは咆哮を繰り返しながら血の匂いがする方角へ走る、真夜中はほんの少し音の響きがいい、俺は群れを横目で見ながらすれ違う、それは結局のところ社会の一員であることと同じなのだ、オリジナルという観念が無い限り抜けられない強固な檻だ、是か非か、正か負か、気持ちがいいほどにシンプルだがそんな思考が何かを生み出したことがあるかなんてことについては、答えを出すのに考え込む必要すら無い、彼らは楽な方へ流されているみたいに見える、敢えてそれ以上のことは何も考えずに生きているみたいに見える、そしてそれは多分間違いじゃない、一度も檻から出たことがないものには外の世界の広大さはわからない、陳腐な言い方をするならば、それはまるで鎖に繋がれた犬だ、そんな暮らししか知らないなら、そこから何処にも行けることはない、ほど近い限界の中で暮らしているものたち、一見それは強固な檻のせいであるかのように見える、でもその檻を開けるのに鍵も破壊も必要無い、外の世界を見たいとだけ思えばいい、それだけで自由になれる、そしておそらくは中に居る誰もがそのことを知っている、では何故そうしないのか?それは怖いからだ、極小の基本的な価値観から離れて、何の保証もない概念の中を歩くのが怖くて、不安で仕方が無いのだ、だから、すべてを理解した上でその中に留まっている、そうしていつしか忘れていくのだ、自分がその中で暮らすことを敢えて選択したという事実を―まるで臭い物に蓋をするように、その後の人生を何ひとつ気に病む事無く歩んで行けるように、外界を遮断して箱庭の中で自己満足に浸るのだ、俺は唾を吐く、糞食らえだ、後ろに下がって下らない言葉を繰り返す臆病者たち、形骸化した夢の国を信じ続けてすべてが段々劣化していく、何も更新されない、どんなアップデートももう行われる事は無い、そしていつか何も無かったようにくたばる、街角の野良犬みたいに、意味も無く燃やされて終わる、さも有意義だったみたいな儀式と共に、もとより存在することそれ自体にはどんな意味も無い、何かを見出すのは生きているそれぞれが選択することであり、義務のようなものでもない、だからたとえ選ばなくても特別損をするようなものでもない、まあ、簡単に言えばね、俺が彼らを気に入らないのは空っぽの癖になにかを持っているふりをしていることさ、それはもしかしたら、持っていないことをどこかで理解しているからこそなのかもしれないけどね、虚勢を張るより先にやるべきことはいくつもあるんじゃないのかい、と俺は思うけれど、どうせこんな話をしたって理解出來やしないだろう、彼らはそういうのが得策だって本気で信じているんだから、それを選択することは間違いじゃないって何故か確信しているんだ、滑稽だよな、そこらへんの石を拾ってダイヤだって言い張ってるみたいじゃないか、世間的な価値観に寄り添うことで自分を大きく見せようとする人間になど興味はない、俺がなりたいのはいつだって俺自身だ、俺自身の為に余計なものをすべて削ぎ落す、その為にこんなことをやり続けている、一〇〇%パーソナルなものさ、それ以外どんなものも必要じゃない、やるべきことがわかっているのならそれをやり続けるだけさ、ボブ・ディランだってそう言ってる、ディランだってエレキギターに持ち替えたりしてるじゃないか、って?そりゃその時それが必要だと思えばギターを持ち替えるくらいのことはするだろうさ、大切なのはどんな選択しようがしまいが、そこに自分というものがあるかどうかだ、フランチャイズの店舗の暖簾を任されることとはわけが違うのさ、表現者っていうのは自分の為に生きるものなんだ、選ぶも選ばないもどうぞご勝手にっていうことさ、その中で選ばれるものになりたいかって?どっちでもいい、どっちでもいいよ、永遠には生きられない、生きている間遮二無二やり続けられればそれでいい、大事なのは結果じゃない、継続し続けることだ、沢山の人間がそこを間違っている、自分以外の何かに認識されようともがいている、大間違いだよ、どうしてそれを始めたのかよく考えてみることだ、動機なんてもっとプリミティブなものなんだよ、少なくとも俺はそうだ、これは俺の野性の為のプロセスなのさ、狼たちよ、吠えてばかりいないでたまには自分の牙の具合を確かめてみるべきだ、たまには顎の強さを確かめてみるべきだ、噛みつく振りだけじゃいつかボロが出るぜ、覚えておくがいい、俺が噛みつくときはなにもかも毟り取るぜ、陳腐な物差しに振り回されてる場合じゃない、人生は短い、最期まで進化し続けたやつの勝ちさ、俺はその証拠を残し続ける、生きている限りその先がある、俺のことを知っているやつだってわりと居る、それは俺が俺自身であり続けたからさ、わかるだろう、みんな、生き方を感じさせてくれるやつのことが好きなのさ、俺が決めていることはたったひとつだ、自分の今現在のほんのひとときを、出来るだけ克明に書き出して見せること、それだけなんだ。



自由詩 吠えるよりも先に噛みつく場所を決めておけ Copyright ホロウ・シカエルボク 2025-08-24 21:39:23
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