雨宿り
岡部淳太郎

あの日 僕等は
雨宿りをしていたね
突然降って来た雨から逃れて
適当な軒下に落ち着いて
肩を並べて 雨宿りをしていたね

周りでは 同じように雨宿りをしている人たちが溜息をついて
濡れた髪や衣服を気にしては
雨の落ちゆく中空にうらめしそうに眼をやっていたけれど
僕等はそんな他人にかまうことなく
二人肩を並べて まるで運命のように
そこに無言で立っていたね

まだ互いの体温を確かめ合うほど
僕等はませてはいなかったけれど
子供なりにどこかどきどきして
無言のなかに多くの歌を秘めて
雨を見ながら 立っていたけれど

この雨が次の季節を用意していることなど露知らず
僕等はそんな状況を意外なほどに楽しんで
そこの軒下に二人で佇んで
雨宿りをしていたね

それはとおい日から
この星が生まれた頃から 何度も降っては止んで
止んではまた 降っていたような雨
それがあの日 ああして降っていたことに
僕等は不思議な懐かしさと安心を感じていたね

あれから人も僕等も 少しは変ったのかわからないけれど
いまあの日を思い 思い だすことに
とおい靄のような思いを感じて
相変わらず迷ってしまう僕等だけれど
いまあんな雨に遭ったら
どうすればいいのか
あの頃と変らず ちっともわからないけれど
雨の情景はいつだって懐かしくて
それでいて どこかひりひりしているんだ

あのとおい いつだかわからないぐらいにとおいあの日
突然降って来た雨から逃れて
僕等は肩を並べて
雨宿りをしていたね


自由詩 雨宿り Copyright 岡部淳太郎 2025-07-22 09:19:09
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