釣りをした日
番田
通り過ぎる船を見ながら、僕は釣り糸を垂れていた。正確に言えば、投げていたのだが。音を立てて船が通る度に、水面には波が立った。そして人は、淡々と辺りをジョギングで走った。夏も過ぎて、走りやすいだろう。この辺りには、僕のまだ若かった遠い昔に面接を受けたことのあった会社があった。奇妙な面接だった記憶。そこで、何を話しただろう。後日、不採用の通知が来た。暑かったので上着を脱いだけれど、風は冷たさをはらんでいる。上空から寒気が流れ込んでいるのだという。秋は春に比べて、そこまで、寒さを感じないけれど、そばで時折魚が跳ねた。人の来ない隙を狙って竿を振る。そうしながら、よく見えない糸を巻き、将来のことなどを考えた。大きな波を立ててどこに行くのだろうと、そして、船を見た。僕はもう、そして何もしたくないとは、今は思わなかった。今日もビルの谷間に日は沈んだ。その記憶を確かにさせるように。
時はぼんやりとした今日の記憶を流れる。何であるかを知らせるために。そして、忘れさせるために。車は何台目だろう。遥か遠くに見えた、太陽。一人竿を振っていた。存在し生きている理由を考えた。若かった頃は思い描いたことを結局何もしなかった。いつも浮浪者のようだったと思うのだ。
僕の背中は竿を仕舞って、一人、そこから立ち去った。立ち止まって、途中で写真を何枚か写す。景色は動画の方が、夜はブレないので良い。辺りを、まだランナーは走った。その思いを感じさせるように。船が通り過ぎると、僕は堤防を越えて、駅に向かった。光る町並み。夜空は高い。人は明日もこの通りの上を歩く。きっとどこまでも歩くことだろう。