夏にあう、かんじ
鏡文志

夏には、夏のムード。『かんじ』が、合うと思う。
蝉のなく音は『皺皺皺』と『皺』の数を数えている漢字、身体納。

夏に飲むジュースのムードは『語句語句』と辞書を引きながら、言葉を調べている漢字、身体納。

夏にアイスを冷やす冷蔵庫のムードは『御運』とか『寺院』とか言って、お寺の前で手を合わせて拝んでる漢字、身体納。

夏にかく汗のムードは『下手下手』と糊のように体に張り付いて、シャツに染み付くととても臭いので、洗濯機の中で『御上手 御上手 御上手 御上手』と音を立てながら、きれいになって貰わねばなるまい。

朝起きると私は、グループホームにいて、部屋を出て食事の部屋のドアが閉まっているので、廊下にあるソファーに座って、床の無言に耳を済ます。
「雑往来雑母 雑往来不応勇」
床があることによって、体がその下に落ちずに済んでいる。逆に言えば床がなければ、土の上に立っているかも知れないので、卵が先か鶏が先かの論になるかも知れない。世の中は大体が適当でいい。雑が往来しているのが世の中だから、心配ない。That’s Airlightと言うわけだ。沈黙が誘うのは、音ではなく作者自身が歌う歌である。結局音の解釈というのは、耳に勝手に入って音が鳴り響くのではない。耳がそれを解釈して音を鳴り響かすのである。と言うことは、その解釈の過程で、視覚効果は当然にして入ってくる。耳だけが音を拾うのではなく、目もまた音を拾うのだ。晩年のベートーヴェンのように、人は耳がなくなれば、頭の中が歌い出す。その音は、聴覚なき音楽であり、歌だ。床は永遠に体の落下を防いでくれるようで、時間の経過はそれを許してはくれない。
「雑往来母 邪子戸 絵似胃上胃湯 道雨」
そこで、じっと目を凝らしていると、床は歌い出し、ロックンロールを踊り出す。侮れない。音楽は時間の経過による安定と、不安定を我々に教えてくださる。オージーザス、カモンロックンロール。アロハフロムハワイ♪ カモナベイベー♪ 鴨鍋♪

私は、家庭内暴力に抵抗し、警察の怠慢による誤認逮捕後、罪に問えない内容のため、精神病院に入院後、思春期から、この年三八まで精神障害者生活を義務づけられている。今もグループホームに強制的に住まわされながら、事業所に通い、事業所が販売するコーヒーのキャッチコピーを筆で書く作業をしたりしている。人生落第生ながら、このお気楽さはなんだろう。自堕落奈落の底にいながら、毎日事業所お出かけ前に音楽ラジオと、パソコン。帰宅後、また音楽ラジオとパソコンの日々を送る。ちっとも女っ気がなく、また管理されて、羊のような生活を送りながら、必死で足掻いたりしている。

夏に逢うムードであり、かんじと言えば、私の好きな米国の六な番頭。座砂浜少年達の歌が良い。彼らの歌に、諺でキャッチコピーをつけてみよう。諺とは、言葉の技を魅せるもの也。語のリズムを揃え、歌から感じ取れる教訓を表してみる。

「サーフィンUSA」→「崖っぷちより、板っぱち」
解説:60年台初頭。エルヴィスが戦場帰還後、かつての冴えは劣り、米国の伸び悩んでいたロックンロールを救った一作。崖っぷちに落ちるよりは、板っぱちに食いつこう。荒れ狂う波を、サーフして生き残ろう。
「サーファーガール」→「柔肌に百薬の効あり」
解説:女の肌に、薬以上の癒し効果がある。総じて、水着ギャルは素敵だ。
「インマイルーム」→「籠る子は伸びる」
解説:男子たるもの、卓上に座り、一人内に篭りて、傑作アイデアを一捻りする努力義務が欲しいところだ。いつも外に出てゲハゲハ笑っている。人気はあるが、軽薄である。
「ファンファンファン」→「軽薄摩耗の如し。しかし楽しけれ」
軽薄によって、神経をすり減らし、それが人生のなんたるかや。ブライアンウイルソンが、重い神経症の中で書いた屈指の名曲。瞬間の快楽を手放すな!
「ドントウォーリーベイベー」→「華麗なる挑戦、偉大なる献身」
ドラッグレースに参加して不安な男を、女性が励ます歌。当時ビートルズを相手に苦悩と葛藤の日々を送っていた、ブライアンウイルソンの心境が謳われる名曲。
「アイゲットアラウンド」→愛の空回り
頭のいい人ほど頭の回転が速く、空回りしがちである。その想像力。未来の可能性への思いの中に、愛がある。真の愛とは、誤解から生まれる、実りのない愛。無償の愛ではないか?
「カリフォルニアガールズ」→性愛こそ、博愛である
みんながカリフォルニアに来れば、愛しあえるというラブアンドピース幻想の骨頂のような一曲。博愛思想の根底に性愛がある。愛はスケベ心。優しい人は大抵スケベである。
「神のみぞ知る」→永遠易く、瞬間は難し
永遠という、いつまでもぼんやりと続いていく時間より、瞬間という一瞬の美の中に、真の人生の奥行きがあるものだ。
「グッドヴァイブレーションズ」→「霊感、神の如く」
霊感の中に、霊長類たる人間の神秘がある。ブライアンウイルソンが、神のお告げを受けて書いたと言われる名曲。
「フレンズ」→「友情より、美しきものなし」
この世に真の友情より美しいものは、ない。これは真にして思う。
「ドゥイットアゲイン」→「友人邂逅して、恋愛を成就す」
解説:古い友達が久々に会い、恋人を作りに手を結ぶ。やはり友情は、尊いものだ。
「ココモ」→「楽園銀河人を救いたり」
パラダイス楽園銀河への憧れは、いつでも人の心を輝かせ、人を救うもの也。


ざっと、こんなものだ。私の作ったコピーから、サマーハートブレイクが感じ取れたかな?

最後に私が、病院内で作った彼らの歌の替え歌を紹介する。
「院内ルール」と言う歌で、残酷な精神病院内での生活を皮肉ったものだ。


『院内ルール』
夜中に起きてはいけません
院内ルール 院内ルール
枕を投げてはいけません
院内ルール 院内ルール
夜中に起きたりしてみたり
夜更けまで枕投げしたね
唾を吐いたりしてはダメです
院内ルール 院内ルール
(院内ルール 院内ルール)
院内ルール 院内ルール
(院内ルール 院内ルール)

※ 院内ルール 原曲 「IN MY ROOM」


散文(批評随筆小説等) 夏にあう、かんじ Copyright 鏡文志 2024-08-01 20:04:58
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