万華鏡 2023/10/26
星染

どうしても届かない距離にあるような、
手を伸ばしても触れないものでできているような、
時代と名前をつけられて、それでもそこに今あるようなものを、
わたしたちはこういう時だけ呼び起こして、
砂時計やスノードームに似たそれをひっくり返して、戻して、
ひらひら落ちるのを眺めている
久しぶりに、起こしてしまってごめんね。具合は? ちゃんと食べてる?
返事のない置物に、声をかけるのは、病室の出来事のようで。

鏡で仕切られた光の中で、
触れたことがないから温度もわからないの、と、
寂しそうにしている女の子のことを、わたしたちは知っている
正しくそこにいて、
お誕生日というのは、
そこにいるあなただけのもののようでありながら、
なにかもっと意味を持ったお祝いの日であるようにも思います。

わたしたちをかつて繋いでいたあの狭い場所は、
それがいまのここであること以外にはなにも変わっていないことが、
憎くもありささやかな幸運でもあるということを、
最後の砂が落ちるとき、適当な答え合わせのようにつぶやいて、
窓の外では、季節はずれの雪、
それでも季節外れなことばかりしていたような、なつかしい寒さ、
目の端で光った星の跡ばかりを追っている。


自由詩 万華鏡 2023/10/26 Copyright 星染 2024-05-24 02:01:30
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