車窓
リリー

 二両電車のシートから
 真向かう窓 で
 連なる民家の軒と緑の蔭

 物皆の息吹き
 重々しくもあり
 閑かなる虚しさに堕ち行く
 薄暮のとき

 欠伸を殺し盗み見る
 斜め向かいに居る中年女性は背を丸め
 図書館のラベル貼られた分厚い本を
 この数日 読み耽っている

 カーブするレールの振動で流れる目線に飛びこんで来た
 ブロック塀の黒ずみから噴き上がる
 八重ヤマブキ
 湿った春の
 暗い隘路に咲き誇る黄金色は
 今日と明日の合間で無意識に明滅する
 惰弱な心を砕いてしまった

 肉も骨も
 プラズマの塵となって
 あの窓を 突き抜ける一瞬、
 蜘蛛の網のように亀裂が生じ私なるもの消え失せ

  そして又 現れる
  生き延びる為に
  誰の目にどんなスガタで映ろうとも




         (2024年4月26日 日本WEB詩人会 初出)


自由詩 車窓 Copyright リリー 2024-04-27 07:32:16
notebook Home 戻る  過去 未来