夏鳥
中沢人鳥

紙が細やかに振動している
撥水性はない
雫が落ちる
水滴は容易に染み込むが
少し弾き出される
風が吹く
枝垂れ柳よりも軽く碧い風
少しの水の重みと粘り気が
紙を飛ばさせない

まだ乾かない
乾けば飛ぶ
宙を舞うが
本音を言えば
空を飛びたい
鳶になりたいわけではない
また声は聞こえてくる

雫は落ち続ける
染み込む
台風が近い
15m/s程度
飛べないが
それでよかった
部分を失うよりずっといい
鷲とて台風には難儀するだろう
また視線を浴びる

雷雨過ぐ
快晴
乾く
概ね皺だらけ
もう飛べるだろう
風は吹かない
黄色い向日葵
桃色の朝顔
光を浴びた緑
蓮の花

吹き返しの風
高く舞う
空には届かない
これで終わっていい
次の雫はもう染み込まない
渇いたまま
本音を言えば
夏鳥になりたかった
燕がいい
軽ろやかな地鳴きを装って

よれた和紙の置き手紙を

そっと机に残す


自由詩 夏鳥 Copyright 中沢人鳥 2024-03-20 00:59:46
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