眠る前に読む本
key




死ぬ前に一冊だけ読めるとしたら何がいい?



もしも、僕を怖がっているならその必要はない
字を読むのが好きな子だった
進学したのも諦めたのも
わら半紙一枚配られて
この学校から東大には行けないと教えられたからだ

母は今でも保育士の「この子は東大に行く」という冗談を信じているし
僕はその冗談を本気で信じなければいけない程支配されていた
いつまでも子供のように馬鹿にされながら生きていく所だった
最近ようやくそんなことはしなくてもいいし、なぜ勉強が必要なのか、社会の中での意味が分かってきたような気がする

僕はまだ死ぬ前に読みたい本に出会っていない
敢えていうなら
自分で書き続けた自分の人生を独りで読み上げてみたい
別に君が読んでくれても構わないんだけど
そんな時間の掛かったわがままはさすがに誰にも頼めないから
本は高価だ、場所も取る、才能も要る、娯楽じゃない、そのために稼ぐつもりがない
小学生の僕がなんで詩を選んだか教えようか
書く分には金が必要ないからだ

もう冗談を言ってふざける必要はなくなった
大人になって良かったのはそれだけ
後は年を取って死ぬだけ
大概のことは手遅れではあるが、出来るだけ清潔に老いていきたい
そう思ったら神様に頭からぶち当たった
音楽を聴いて感動するみたいに

神様に代わって、結婚する彼らの将来を
気付いたら祝福していた
それをするのは本当は聖職だったんだろうな
戸籍が愛の証明なんだろう
神様に裏切られた人の幸せを祈れるのは
あの頃幸せを願って笑えた捨て犬みたいな僕の特権だったのかもしれない
そんな形にならないもの
名声よりも要らなかっただろうに

今度一緒に餃子の王将に行こう
奢るよ、あの子にしたみたいに
どんな精神状態でもデバイスは正しく出力してくれるから好きだ
手書きの言葉を見る機会があって
今にも死にそうなその形が心配になったなら
病院に連れて行ってせいぜい養生させた方がいい
死なれるのが嫌ならね

神様は誰も連れて行かない
人間が殺すだけ
あるいはあなたの中のあなたがあなたを殺そうと本気で思ったんだ
難しくない
何が欲しいのか見極めることだよ
言われなくたって分かっているだろうけど
これを読んでいるんだから

お休み、僕の可愛い人
いつか君が
僕が眠る前に読む本を残すように願って


自由詩 眠る前に読む本 Copyright key 2024-03-16 22:12:55
notebook Home 戻る