いつまでも少年のままでいられたものならば
板谷みきょう

十代の頃、坊主頭のボクは
がなるように
歌うしかなかった

裡に潜む得体の知れない
悶々とした想いの捌け口を求めて
形に
言葉に
縋りながら歌っていた

生活の為に地方テレビ局で
リポーターをしていた
売れないフォーク歌手の
地方回りの前座に
地元のシンガーとして
抜擢されてから
全道各地のライブの時に
前座でボクを使ってくれ
そして
出演料として小遣をくれた

当時のボクは
それだけの価値のある歌を作り
歌っていると思っていた

そこで
舞台表現についてを教わり
地元の歌手や
各地のお店を紹介して貰い
師匠として尊敬もした

それは
六十代で歌っている今も
とても
役に立っているのだが

本州の弾丸ツアーを決行した時
神奈川県逗子市の師匠の家を訪ねた
師匠はギターを弾かず
歌わなくなって大手出版社の
編集長になっていた

久し振りに会って
かつてのように
泊まらせて貰った夜
感謝と近況の話を遮って

「板谷くん。
もう僕を師匠と呼ぶのを
止めてくれないか。
僕は
君の人生を台無しに
したのじゃないかと
後悔してるんだよ。」

一枚のLPレコードを出した師匠
室井まさゆき

今でも
ずっと師匠のままだ


自由詩 いつまでも少年のままでいられたものならば Copyright 板谷みきょう 2024-03-14 00:18:26
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