鏡像(17)「死の砦」①
リリー

 「おはよう。今朝も、正門前に救急車が止まってたわよ。」
 「二月になって、この数日どうなってるんだろうね?」
 雑木林から出て来たサバトラ猫の鈴ちゃんと
 施設の裏庭へ朝食を貰いに出向く途中の
 三毛猫のミキが、立ち話する

 ×××

 「あだっちゃん、入社した頃と別人やでぇ。痩せすぎや。
  食べてんのか?」
 大食堂の賄い婦さんが、
 早朝勤務で居室へ配膳した朝食トレイを下げて来た私へ
 声を掛ける

 「眠れてないんですよぉ…。風邪で気管支炎なってしもて。」
 吸入していても寝入り時と午前四時に咳きこんで
 睡眠が取れなかった
 職場へも咳止めの水薬を持参し
 疲れて自炊も出来ていない生活だった

 「休んだらどうなんや?けど…、今、無理か。」
 旧館の一階がインフルエンザの患者でほぼ全滅
 「あんた、病気になるで。」
 それこそ高熱でぶっ倒れない限り休養など許されない状態だった

 市民病院の入院患者と退院後の居室療養中患者で
 休日のシフトも確保できない
 インフルエンザに感染した職員が
 十分な休養も取れず出勤する
 感染者の居室へ出入りした職員が手の消毒だけで
 感染していない入居者の介助に当たる
 これでは 
 院内感染しても当然であった
 何故、マスコミに報道されなかったのか?

 免疫力の低い高齢者達にとって施設は
 生命の安全を確保出来る場所でなくなっていたと言っても
 おかしくなかったのだ
  


自由詩 鏡像(17)「死の砦」① Copyright リリー 2024-03-11 15:51:24
notebook Home 戻る  過去 未来