鏡像(14)「疑惑」
リリー

 「あんた、Rさんと二人やったんかっ?さっきまで。」

 それは或る日の午後
 旧館寮母室から日誌を書き終えて
 廊下へ出て来た私の片腕を掴み、たずねる四十代の先輩
 「はい。そうですけど。」
 「Rさんが預かり金帳簿つけてる時に、寮母室入ったら
  アカンのやって!」
 「へっ?なんで、どういう事ですか?」
 「あんた、まだ聞いてへんかったんか?」
 「何をですか?」
 「途中で、一人にならへんかったか?」
 「はい。トイレ行かはりましたよ。」
 「ほら、見てみい!あんた、やられたわ。…。」
 「へっ?何を!どういう事ですか?」
 
 この先輩のわけわからん言動を、私は翌日身に沁みて知る事になる

 「あんた、私がトイレ行った時一人やったな。金庫に鍵掛けずに
  離れた私も不注意やったけど。帳簿再確認しても誤りは無いし。
  証拠は無いから、これ以上言わへんわ。」
 副主任がいる寮母室へ仕事中に呼び出され、事態を確認される

 五千円が不明だと、Rさんの私へ頭から決めつけた発言
 自分は身に覚え無いと断言しても、
 素知らぬ顔で 寮母室を出て行くのだ

 副主任は、この時になって初めて話してくれた
 同じ事が過去に二回あった と
 Rさんの事は次長も分かっているから
 不足金は事務所で処理するので心配要らない

 それを聞いて堪えていたものが一挙に溢れ
 抱きついて号泣する私の背中を
 副主任はさすってくれた
 「あ〜あ、あんた…べっぴんが台無しやんかいな。」
 
 チーママと同い年のRさんは、
 日頃から粗雑な業務で問題のある職員だったのだ
 
 


自由詩 鏡像(14)「疑惑」 Copyright リリー 2024-03-10 11:26:45
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