立春 二篇
岡部淳太郎



まだ寒いのに
もう立ってしまうのか
立って 先に
行こうとするのか

その後ろ姿を見つめて
僕たちは
ずっと後から
暖かくなろうとするのだが

まだ寒いのだ
もうこんなに時が経つのに
立ち上がって 行くには
気温が足りないのに

行ってしまった後ろ姿を
とりあえず
追いかけるしかないから
僕たちも立ち上がる



立春と言う
春が立つとは どういうことか
草が 花が 地から伸びて
立ち上がる
そのことで
春の訪れを示す
だから 春は立つのか
逆に
春は落ちる
ということはないか
春の 謀られた
手のなかに落ちて
その甘い暖かさの陶酔とともに
すべてをなしくずしに
してしまうような――

光は揺れながら落ちてきて
春を立たせて
そのなかで人は
暖かい眠りのなかに落ちて

*連作詩集『自由落下』拾遺





(2020年2月~2021年6月)


自由詩 立春 二篇 Copyright 岡部淳太郎 2024-03-07 18:10:48
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