ふたたび去つていくものは(2007)
中田満帆




 少しずつひらかれるまなこを
 ふたたび去つていくものは
 手のひらへ
 あるいは風のなかへ落ち
 現れてくるのは青と黄の格子
 二月のかもめがゆつくりとかすめ
 あらたな軌道を知らす

 これが朝なのか夜なのかもわからず
 きゅうにかれが立ちあがると
 見知らぬひとびとが火種を口に含み
 ただ歩いていくのが目撃された
 うそをふりまきながらかれは高原地帯の故郷を過ぎ
 なにかをふりむいてだれかをくり返す
 まぐその匂いを寒さに嗅ぎ
 冬の街へ少しずつ病や酒とともにでていくのだろう

 いま閉じられるまなこを
 ふたたび去つていくものよ
 あるいは風のなかへ落ち
 またしても都市への密航を企てるものよ
 青と黄の格子のまえでぼくは口笛を鳴らす
 なにもいわないで



自由詩 ふたたび去つていくものは(2007) Copyright 中田満帆 2024-03-07 13:17:22
notebook Home 戻る  過去 未来