花が咲くまで
◇レキ

ちょっと前まで風船は鉄球だった
少女はそれを引きずって暮らしていた

今は風船は空気で満ちて
陽射しを浴びるだけで割れそうなくらい
薄い皮膜はつるりとしている

軽く紐を手に絡ませて歩けば
そよそよと風船は浮いてついてくる
もう微かになった傷跡のように

あとあるのは雑然とした街

生きる目的の代替物のような欲望やエゴ
人々の中で生きていくための建前のような優しさや配慮

どちらも不完全なまま少女は街を歩き始めた
よそいきの真っ赤に白い袖のスカートで

風船を手に持って



風船はとうの昔に割れてしまった。
でも風船の中に入っていた小さな種と
小さく縮れた風船の残骸は今もポケットに残っている

死とそっくりの孤独
ひたひたとついてくるようになった
死にたくないから生きている
歩くことだけが倒れない方法だった



誰もいなくなった砂漠
昼は熱いし夜は寒い
でも別に私は気にしていない

真っ赤で白い袖の
もう丈の合わないスカートを履いて
下を向き慣れた足取りでただ歩き続ける
ひたすら丘を上って、下って
素足から血が出ることもなくなった

かつて後を追ってきた孤独は影として私の一部になった

見向きもせずに風は吹き抜けていくだけだ
夜星々が私の一人ぼっちを突き付けてくる



よろめいてスカートの小さなポケットから
風船の残骸と一緒に砂粒のような種はこぼれた

砂漠であることを知れず
落とされてしまった種は
一時の雨に芽生えてしまった
茎を伸ばして、眩しい
もがくように細い根を生やす

夜逐一凍えて
昼絶えず焼かれた
その苦しみを自覚すらできず

やがて何かの勘違いのようにあてもなく
それでも小粒の花をぽつぽつと咲かした

その日は沢山の朝露が降りた
世に露呈した痛々しいピンク色は朝露の味を知る

歩き続ける少女にも
今日は沢山の朝露が降りていたよ


自由詩 花が咲くまで Copyright ◇レキ 2024-02-25 18:14:05
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