動物園(2006)
中田満帆


 (見る) だれもかれのなまえを知らないし だれも知ろうとしない 見られ 覘かれ 触られ 汚され 洗浄され 閉じ込められ 少しだけ解き放たれる かれ

 (見ている) 動物園のなかをくまなく かれを覘き 触り 笑い 汚し 追い込んで ひっぱって 少しだけ閉じ込められるひと 見られたものはたちまちにきずを得て 見るものは昏い愉しみとわだかまりをいつまでも曳きずるだろう

 (見る) おまえのなまえも知らずに 金属の名札をだれも読もうとしない ぼくはどこから来たのか 見るために来て いつのまにか見られている 視線を移すことなんか幾らだってできる しかしできない 見返してしまえば一瞬にしておまえの番なのだが

 (見る) 見られるその両方から遁れられない ぼくもみんなもそれを知ってるだろう それでいいかと問われればぼくはしずかに頷こう

 (見る) ぼくがいま見るのはどこをいっても寂しい国道の大通り 橙色の灯りが点り踏み散らされたあの土地にはもうだれも来ない あたらしいものを見ようとみんなはでていってしまった 見られることを嫌悪しながら ひどく愛しながら
 (見られている) 秋の前触の夜 おまえがぼくを見ている


自由詩 動物園(2006) Copyright 中田満帆 2024-02-25 14:41:55
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