名残りの愛
リリー

 地下駅へ降りる階段
 吹き上がって来た風で、
 乱れた前髪なおそうともせず

 いらだたしく
 けだるい晩春の気圧に
 襲われる

 かつて愛した男
 今でも その腕に抱きしめてほしい
 その唇の強さを知りたい
 だけど今の心に
 愛があるのか
 それは唯
 日毎の衝動にすぎない

 厳しい季節をすぎて
 私と愛とは見事に離れ去り
 私も愛も各各の位置に
 遥か 孤立する

 そして ものうさに
 ふと あくび漏らし
 確かに愛した筈の男の血汐が
 塵と共に舞い上るのだ

 あなたは晩春にも
 あなたを愛することの出来る女の胸に
 今夜抱かれていよう
 それなのに
 私には又も あくびが出るだけ

 そうなのだ
 これは
 愛の名残り
 地下駅のホームの喧騒に流れるアナウンス
 重い頭には 退屈な歌に
 聞こえてくる
 


自由詩 名残りの愛 Copyright リリー 2024-02-08 19:55:23
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