レミング
中田満帆



 ひとたび渇いた魂しいは舌のように膨張し始める
 軍備を払う金が政府にはあるはずだった
 敵は身近な隣人を人質にとった
 でも政府は動こうとしない
 あいつらはおれたちを
 見棄てたんだ
 愛にうらぎられたひとたちがたどり着く駅で
 なまえを奪われた犬がおれを探してる
 気をつけろ、
 抗って、
 怒れ
 やがて果てるときにそなえて、
 人皮の靴をつくれ
 支那人の大群が全体主義を呼び寄せる
 世界にあぶれたムスリムが瞞し伐ちを呼びかける
 ああ、もっと中継してくれ
 そう、もっと中継してくれ 
 撰ばれた民を自称する幾千の痴れ者がテレビ画面にひろがって、
 左翼のやつらは夢を語りつづける
 右翼のやつらは大義を語りつづける
 だが永遠に大人にはなれない
 性的倒錯を多様性といいかえる現在で、
 cant と dick のちがいがわかるか?
 メラネシアの奥地で、
 iPhoneをなくした少年がやがて兵士になるまで、
 どれほどの経験が必要なのかを算えてる
 夢を奪われた人生を質札に変えて、
 抵当墜ちになるまでにずっと
 ずっとおまえの名を
 喚びつづける
 燃えろ、
 おれにつけられた値札よ
 燃えろ、
 レミングの群れよ
 けものの牙にはさまれ、
 惨めなものに変質した存在よ
 あたらしく産まれる子供たちに顔向けなんてできない
 とてもできやしない
 おれたちは等しく卑しいレミングの群れだ
 だれかがいう、
 地獄の番号を算える術を、
 虚構を生きる術を学ばされ、
 送りだされた社会に愛がないからと、
 それぞれの集団死をいま始めるんだってな。


自由詩 レミング Copyright 中田満帆 2024-02-08 13:21:41
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