黒曜の夢
レタス

暗い森に彷徨い
ぼくは大きな林檎を探していた
森の入り口にそそり立つ老木に林檎の在りかを尋ねると
「三丁目の角を右に曲がり百歩あるいたらcafeのランタンに聞けば良い… 名前を聞かれたら決して答えてはならぬ… ランタンの焔に焼かれてしまうのだ」

「三丁目とは何処ですか?」

老木は答えなかった

此処からは路が二又に別れ
どちらかを行こうか迷った
コインを投げて表だったら右へ
裏だったら左と決めた
投げたコインは表だった

暗い森は寝静まったように漆黒に塗り込められていて
一歩も歩けない
ショルダーバッグを探り懐中電灯を取り出し
歩きに歩いた

やがてポツリと闇を照らす一軒の家が在り
老婆が戸締りをしていた

「すみません。あのう三丁目に行くにはどうしたら良いのでしょうか」
老婆は怪訝そうな面持ちで
「お前さん何処から来なすった?」
「森の入り口から来ました」
「そうかえ… この先に郵便ポストがあるから其処が三丁目じゃ」
「有難うございます」
老婆は無言で灯りの中へ消えていった

コインは間違っていなかった

やがて赤いポストが立っていて
十字路に路は分かれていた
右に曲がり歩数を数えながら歩いてゆくと

すでに閉店しているcafeの入り口にホワリと灯るランタンがぶら下がっていた

「すみません。大きな林檎を探しているのですが、どうやって行けば良いか教えて頂けないでしょうか?」
「お前さん名はなんという?」
あれ… ぼくは名前を忘れてしまった
「名前がないのです…」
「ハハッ!ハハッ!この世に名前のないものなどあるか!」
「本当に名前が無いのです…」
「ほんとか? ならば教えてやろう お前さんのバッグの中を見よ」

バッグの中に紅い大きな林檎があった…

辺りはボウ~っと霞み
薄明るくなっている

雀のさえずりが聴こえてきた

ふらりと立ち上がり
アイス珈琲を飲み 意識がハッキリすると
昨日買ってきた林檎がテーブルの上に転がっていた


自由詩 黒曜の夢 Copyright レタス 2024-01-18 22:29:50
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