由比良 倖

空っぽの夜を生きている。
この地球上には全ての人類を酔わせるだけの情報があって
物質たちが動いている、とてもやかましい。
雨――退屈が好き。ここが、全て。

みんな普通の人間だ、と信じたい。
誰といてもうまく行くって。

私は不可解な人間になりたくない。
泣きたい。泣いて、
愛されたい。私には愛される価値があると、
信じていたい。

アパートの部屋は畳敷きで、
先の住人が畳を換えていた。
いろいろなものが壊れていく、
いろいろなものが捨てられてく。

私は変わらないままずっと、
遠い遠い国を描き続けているのに。

例えば、
君が呼んでくれる私の名前が好き。
君といる時間の一秒の連続が好き。
君が帰った後、君の空気を残しておきたくて、
明かりを付けないままでいた。
――そういう国の話や。
小さく、遠い、遠い国の話。

ストーブの消えた匂い。
私は私を抱えたまま死んでいく。
あちこちで取り落としてしまった自分を思い出せない。

ねえ、それらは実際、あるのでしょうか?

私は、死んで私になれるでしょうか?

月が上る。
太陽は過ぎた。
太陽は波打つ悪夢のように私を誘う。
ネガティブなタイプの私の死。

ここで私は
次の雨を待っている
透き通った歌が聞こえる

ピンク色の月が昇る

やがてこの薬が効いたなら
私は私の疲れを放って旅に出よう

ピンク色の月が昇る

次の薬が効いたなら
私は

ピンク色の月が全てを覆い尽くし
全てが後悔のための、暗い海となりますよう……


自由詩Copyright 由比良 倖 2023-11-17 07:13:18
notebook Home 戻る  過去 未来