カタコトや
ただのみきや

頬をなぶる風 
ひるがえる恋情のように
雨を呼び
低く速い
雲は濃淡に光をにじませて

空のようにこころをしぼれるか
燃えさしの骨をひろえるか
瞑った太陽の頬をなぞるように
数える指を失くしながら
ぬりつぶす雨の来る前に

ひねりつぶされるすずめの声で

  *

くつがえされた土くれの
 かすかな呼気
 瞑ったままの声

信号の押しボタンにとどかない
幼子の
タンポポ色の帽子をかすめた
蝶の影が拡大される

むすぼれた幻の 沈黙が
 独り歩きをはじめる

つぶやきが石と化し
時を経て虫となり
サンダルから出たつま先の
青に溺れて昇天した

頭の中からとめどなくあふれ出る
タンポポ きいろい タンポポ
息絶えた土

墓石のような暴力だ
狡猾な光の中で
えくぼは帯を解く
無言の尋問が始まった

  *

ことば探して
こころ隠して
曲がった角で見栄を張る

破れた音
飛び去る影
ことばを脱いで白を切る

  *

恋人の首と小指を
苦しまないよう間引きして
暗い未来に安堵する
時の炎に炙られて
カラッカラに反り返る
ああまなざしやまなざしや
馬鈴薯の花
苦笑するバラ
青い胡桃の樹の下で
トカゲのしっぽと指切りげんまん
真昼の夜がつめたく開き
足音だけが笑いだす
糸の向こうに神ときみ
芝居小屋の篝火に
火取蛾おどりシュッと鳴く
ああまぼろしやまぼろしや
糊付けされたページの中に
ふたりの卑猥が隠れんぼ
いわれを追われ忘れて祝え
日々これ祭り
むらさきマリア

──稲光と轟きの間にいくつ嘘をつける? 

ああまどろみやまどろみや
沼のほとりで機を織る
狂うことなく通う者なく
残光自然薯じねんじょ頭陀袋
霞を食ってキスミーキスミー
カタコトや
ああ啄木鳥きつつきや松虫や



                     (2023年6月17日)










自由詩 カタコトや Copyright ただのみきや 2023-06-17 13:22:03
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