This is the Chuo-Sobu Line train for
fujisaki

総武線が僕を運ぶ
大きな川をいくつも越える
すばらしいスピードで、チーバ君のあごのあたりに
たいへん多くの人生を乗せて、突撃
(hello!)

ホームに滑り込む勢いそのままに、
僕は階段を駆け下りてマクドナルドになだれ込む
車内でモバイルオーダーを済ませたのに、
ポテトはまだ受け取れない
後ろに並んできた体の大きなおばさんが、
体の小さなおばさんに質問している
仕事は何しているの?
ご主人は?
お忙しいの?
お子さんは?
じゃあ娘さんはまだ学生?
結婚されたの?

定員が、これから紙袋に詰めようとしている、
あれが僕のポテトに違いない
じゃあご病気なの?
入院とか?
いまは退院されて?
職場環境かしら?
急に頑張れなくなっちゃったの?
パワハラとかではなくて?
体の大きなおばさんの声はよく通って、
態度が大きく、意志が強い

線路の下にあるマクドナルドにいる僕の、
頭上を総武線が走っていく
ここは、快速の止まらない駅だから、
今ものすごいスピードで、人間たちが、僕の頭上を通過している。千葉へ、東京へ。
成田へ、逗子へ、上総一ノ宮へ

「ねね、それであなたは
どちらに住んでいらっしゃるの?」
どちらに住んでるって、それは
小岩です。市川です。船橋です。
津田沼です。平井です。両国です。
並んでいる人々が口々に答える
稲毛です。浅草橋です。錦糸町です。
幕張です。幕張本郷です。
振り返ると、今度は全員が僕の方を向く(あなたは?という顔をする)
僕? 僕も、
小岩です。市川です。船橋です。
津田沼です。平井です。両国です。
(ふっと気を失いそうになり、よろける)
(周囲が白い光に包まれて、僕の回想が始まる)

中央線はいいよなあ
どこまでも続いていくロマンがあって
東京を抜け、山々を抜け、遠く信州まつもとまで
それに引き換え総武線は
千葉まで行ってその先は、
成田を過ぎてどん詰まり
犬吠岬から飛び出して、海の底へと沈んでいく。
一度海へ沈んだ車両が青色で、これから沈むのが黄色なのさ
いいや違うよ。沈む運命にあるのが青色で、そうじゃないのが黄色さ
だって青いのは、快速だなんて名前で、いつも一目散に追い越していくだろう
あれは海に帰りたいんだよ

僕? 僕が住んでいるのは
稲毛です。浅草橋です。錦糸町です。
幕張です。幕張本郷です。

降りそびれた人はどうなるの?
そりゃあ海の藻屑さ。ようく見てごらん、総武線快速の乗客の、死んだ魚のような目を。
(死んだ魚のような目とはよく言ったものだ!)
じゃあ総武緩行線に乗っている人は?
そりゃあちゃんと家に帰れるさ。だってほら、暖かみのある黄色い電車は、なんだか家に帰るための路線って感じがするだろう?

ポテトを、僕はまだ待っている
後ろのおばさんは全員の住む街を集計して、マトリックスにまとめようとしている
人生において、待つことは多い
なんでもちょうど来ることは少ない
でも待つことって、とても創造的だと思わない?
思うわ。とても。
わたしなんていつも、
この車両に乗れば、すぐに出口に着くなんて
ここらへんの車両はいつも空いていて座れそうなんて
そんなことばっかり考えてるのよ
(そうよそうよ!)
そんな時ふと、自分はただタスクをこなしているような
社会のルールを履行することに命をかけているような
資本主義社会の縮図みたいなね
ポジションが全てだものね
東船橋よりも船橋の方が便利なのよ
いいポジションなのよ、快速も止まるし
だからお金も高い
そういう話よね?
それであなたの娘さんは
(東武もあるわね)
そういうゲームからはドロップされたわけで
とても気の毒な感じがするけれど
ボランティアにでもいかせて、人に感謝されてみることよ
どうにだって生きていかれるんだから
ありがとうって言われ慣れてないんじゃない?
生きる実感は、そういうところにあるものよ
正論すぎてくさいけれど。
たがらじっと
じっと待つことよ
問わずに、待っていれば、
人生の方から、
あなたに問うてくるから。

川辺に咲く満開の桜を、壮年の夫婦が見つめている
数駅過ぎる
河川敷の野球場で少年がちょうど空振りをする
数駅過ぎる
ブルーシートの塊が川沿いに点々と並んでいる
(ホームレスは川が氾濫したら一体どうするのだろう)
数駅過ぎる
土手に消防車や救急車がわらわら集まって、溺れた子供を救助している
総武線はいくつもの川を越える
ポテトを持って僕は家に帰る


自由詩 This is the Chuo-Sobu Line train for Copyright fujisaki 2023-04-11 15:53:28
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