いちごシロップ
fujisaki

色あせた政治家のポスター
が見つめる こうえんからまっすぐにのびていた道は
とうきょう行の 一方通行で
希望だった
このどうしようもない こうえんの周りで
くすぶっているはずじゃない わたしは
とうきょうで女と寝たり寝なかったり するはずで
母のいない 小さなアパートで
息をひそめ 

忘れていくはずだった

こうえんの側溝に捨てられていた
濡れたエロ本を枝で持ち上げて 
鬼ごっこをしながらわたしたちは学んだ
ヒーローはいつも あたらしいことばをもってくるやつだった
わたしのなかに住むようになった 女たち
しばしば
わたしを つれていった

けれどいま
祖母の 車椅子であそぶ 
伯母に 女がいるのか聞かれる 母は
夜更けの

わたしを産み とらえてはなさない
さざ波
よせてはかえす 
優しい
強迫

生まれ
育った場所だもの
黒いベンツも 白いベンツも 
品川ナンバーじゃなくてかわいい
空も 絵具を塗りたくった画用紙のように青いし
こんなに橙色だったかって思う 夕焼け あの頃も
一番に登ってみせた
木の上で

決まって うまくいかないとき
眠っていても
踏切の音が聞こえてくるようなときにかぎって
便りがきた それは
いのり のような 
意思
彗星が弾みをつけて 勢いよく太陽系を飛び出していってもまた戻ってくるように
わたしは引き寄せられていく

どうしたい? と聞くわたしに
愛想をつかしてでていった
名前で呼ぶにはあまりに
みずみずしかった あの身体に
教えたかった 「どこへ行こうと
かるく握りしめるだけで
(いろはすみたいに)
ひねりつぶせるんだよ」
年上の スーツ姿になびいていった
大海で揺れるわたしの
いかだ
ペットボトルでできた
母なる海で浮かぶ
透明な乳房

色あせた政治家の顔
がひきつっている 一方通行の道を
どうして戻ってくることになったのか
こうえんの側溝に隠れていたときの気持ちで とうきょう
息をひそめ 
て いたの

突然
車が いきおいよく曲がってきて
わたしはひき殺されそうだった
心の奥底で 望んでいたこと
甘い死の香り
氷にかかったシロップ
月の無い夜に砂浜で聞こえてくる
声にならないのろい
背筋、伸ばして
しゃんとしなかんよ。
それは
わたしが生かされてきた
あたたかい
血のつながり


自由詩 いちごシロップ Copyright fujisaki 2023-04-11 15:50:20
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