無題(ふかふかの 布団の中にだけ在る しじま)

ふかふかの 布団の中にだけ在る しじま
獰猛な憂鬱をいざなう 呼吸 冬空にしがみつく枯れ葉
私の食道の裾 擽る赤黒い衝動
その指先の なんと神経質そうなことか

   朝を妨げないカーテンは今 深く眠り
   充電器が閉め出された子供のように啼いている

深夜の #死にたい 誰かの涙 恨み言
啜り 生き永らえている人 群がり
揉み手する銀蝿 ぬらぬらと光る
リスカしたての生っ白い腕
他人の傷口を舐める やわらかそうな
舌 うごめ

どうか 冗談だといって

   狂気を乳化する 絶叫は脳を脱ぎ捨て
   走り去る あおい丘 牧草をなぎ倒しながら
   遠く さざめきの 向こう側へ遠のき
   残された人影 アラームが牧羊犬のように迫る

早朝の 布団の中にまだ残されていた しじま
圧縮された憂鬱 空き家の庭に聳える老いた白樺
私のはらわたをまさぐる 赤黒い衝動
その手に心臓を預けてしまえたなら


自由詩 無題(ふかふかの 布団の中にだけ在る しじま) Copyright  2023-01-29 13:51:47
notebook Home 戻る  過去 未来