海へ
葉leaf




玄関に遺失された小さな靴はその都度捨てられては発見され、ありとあらゆる名前で命名されている。靴の平面はいつでも同じ体温と同じ表情を持っていて、豆粒みたいなまなざしで地面の消毒を繰り返す。混沌としての君はその小さな靴に混沌の足を差し入れることにより、世界という海を招き入れ、海と激しく混ざり合い発火する。君が靴を履くということは、君という聖別された混沌が海の複雑な秩序を描きなおすということだ。

歩く君はいかなる土地も歩いていない。君は海の風景を通り抜けていき、混沌が焼き尽くされていく快楽を肌で感じている。風景は君を知らない、だが風景の粒子は君の呼吸とともに君を構成していく。この海で起こった災厄のかけらを、君はいともたやすく摂取していく。君は部屋を超越し、再び部屋に収まっていく。その超越の途上にこのように海たちのまたたきが塔を作っていく。

海は至る所に傷口を持っていて、君はその傷口を拡大する。手を振り脚を振り歩いていく君は笑いながらもきわめて残酷だ。君は断片の時間を生きていて、海は断片にくまなく流れ込む。玄関に遺失された小さな靴の二つの穴にも海は流れ込み、同時に君も流れ込む。君はずっと混沌であり続ける。大人になっても混沌であり続ける。君と海との命をかけた戦いは今まさに火ぶたが切って落とされた。




自由詩 海へ Copyright 葉leaf 2022-09-03 08:46:35
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