夏の影
番田 


ぼんやりとした面持ちで投票に出かけてから、ドトールの中で銃撃に関するニュースを僕は見ていた。特に何か関心があったわけではないが、あれだけ動画がSNS上で流されていると、知らず知らずのうちに何度も何度も見てしまうという。犯人の顔も、銃撃の瞬間も、ケネディ大統領暗殺事件にも似てはいるが、それ以上に多方向からではあるがはっきりと見てとることができた。それにしても、今日も街は歩いてはいられないほど暑すぎた。汗だくの人の背中を何人も通りで見かけた。そして、入ったドトールで動画を見ていたのだった。僕は色々な噂の巻かれたような、ネット上の空間の中にいた。さっきまで生きていた人が死去すると、特に一斉にはじまる追悼番組の映像を見ることもなく、僕は地位と名声を築いた政治家と、生活苦にあえいでいた一般人の男を結んだ接点とは何だったのだろうということについてを考えていた。二人をつないだ奈良という古都の場所についてを。演説の場所の実行犯の住んでいたマンションからの近さが妙だとして、指摘している人がいる。あらかじめ意図されたものなのか、単なる偶然なのかについてを、今後調べる必要があるのかもしれない。人が殺害できるほどの手製の銃を一人で作ることはなかなか難しいような気も僕はしている。


でも、そんなことを考えながら店を出ると、いつのまにか街は日が傾いて少しだけ涼しかった。無料の自転車置場に僕は歩き出した。そこからどこに向かうのかまでは考えていないのだけれど。



散文(批評随筆小説等) 夏の影 Copyright 番田  2022-07-11 01:36:16
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