愚痴
末下りょう

こんな夜にちゃんとしたくない。地べたの気持ちをさらに貶めたい。

わたしは普段からだんまりをだんまりとして完結させる女を崇拝してる。とくべつ美人じゃなくても微温的で見学的な逃避的で露悪的な心理学的で惑星的な女たちのだんまりを崇めてる。馬鹿を様式美としてスルーできる女に憧れてる。

でもこんな何も残らない夜に何も残さないわたしは生きてけない。


パイセン死んで。


パイセンがはべらす白人女がふりまく香水のどぎつさに食欲をそがれたお食事会で生まれた最初の話題でいきなりしつこく自分の正しさ証明したがって相手より賢いと思われたいがために相手の声を自分の大声で消すパイセン死んで。質問よそおった演説と考察よそおった演説と対話よそおった演説をえんえんと垂れ流すパイセン死んで。みんなの意見を自分の趣味趣向に帰趨的に参照してまとめて片付けようとするパイセン死んで。デザートを済ませても訛った英語でこそこそパイセンとしか喋ろうとしない白人女もパイセンと死んで。会食の席で口語性の孤独ともいうべき時空で腐ってるあんまよく知らないパイセンの地元の後輩の女の子もついでにパイセンと死んで。全体のない全体に結局冷めた料理しか残せないパイセン死んで。他人の発言のアーカイブ化がヘタくそすぎなパイセン死んで。勝手に侮辱した気になって意見強制してみんなをヘンテコオーディションの対象にするパイセン死んで。え、裁判官?みたいなパイセン死んで。テーブルがお通夜になってもいいからパイセン死んで。


どんな食事の席にも会話など必要ないと言い切ったあの詩人に今夜だけはいいねの嵐を浴びせたい。


食べ物はなるべく大事にしたいからお願いパイセンわたしの前からきれいに消えて。

このままわたしを地べたに残して




自由詩 愚痴 Copyright 末下りょう 2022-06-06 12:26:37
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